2016 Fiscal Year Research-status Report
腎周皮細胞と腎臓病コホートサンプルを用いた腎線維化抑制治療の探索
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15K08065
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山本 多恵 東北大学, 大学病院, 助教 (20618087)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 高明 東北大学, 医工学研究科, 教授 (80292209)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 腎性貧血 / 腎不全 / 尿毒症物質 / EPO抵抗性 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性腎臓病(CKD)における腎性貧血は腎線維化とエリスロポエチン(EPO)製剤に対する不応性病態により引き起こされる。EPO抵抗性の患者では、慢性炎症や低栄養、腎不全に伴う尿毒症物質の蓄積やアシドーシス等に起因する反応性の低下が考えられている。本研究の特徴は、コホート研究と腎不全物質のメタボローム解析を組み合わせて、腎性貧血に関連する因子の解析を進めることである。そして、様々な背景をもつCKD患者から積極的介入を要する患者を把握し、貧血予防や腎線維化抑制など腎機能保護治療に繋がる病態の解明を目的としている。昨年度はCKDコホートを用いた解析を中心に進め、Hb10 g/dL未満の貧血CKDG4-5期では末期腎不全の、CKDG3期では脳心血管病・全死亡の発症の臨床予後不良に繋がることを明らかにした(Yamamoto T, et al. Clin Exp Nephrol. Clin Exp Nephrol. 20:595-602. 2016)。 平成28年度は、CKDコホートおよび透析導入期の患者データを用いて、腎性貧血と関連する臨床病態の解析を進めるのに並行して、主に、第二段階の解析である尿毒症物質の測定およびメタボローム解析を進めた。具体的には、透析導入期の患者の解析において、Barthel Index(BI)を指標とした身体機能は、高年齢や心筋梗塞合併例で低下し、血清アルブミンやクレアチニン値、栄養指標と相関を認め、身体機能低下と栄養不良は併存することを明らかにした。またCKDコホートでは年齢と死因の関係を明らかにした。さらに、栄養不良はESA抵抗性指数やヘモグロビン値と相関することを明らかにした。鉄代謝の中心的役割を担うヘプシジンは透析導入後に低下する一方で、一部の尿毒症物質は栄養不良でむしろ高い関傾向を認めた。これらの結果を複数の国内外の学術集会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、腎性貧血と関連する尿毒症物質の測定およびメタボローム解析を進め、概ね予定通りに進行している。またCKDコホートや末期腎不患者における栄養指標など腎性貧血と関連する臨床病態について、その成果を複数の学術集会や研究会で報告することが出来た。末期腎不患者のデータベース構築も順調に進み、測定した尿毒症物質との関連を解析する準備は整っており、概ね順調に進行している。 これまでに、CKDコホート研究で、ヘモグロビン値は年齢やBMIなどの栄養状態や炎症の影響を受け、EPO低反応性患者の予後不良を明らかにした。同様の結果は、透析導入期患者においても得られ、栄養不良は、身体機能低下や高齢、低アルブミン血症と相関し、ESA抵抗性指数およびヘモグロビン値と有意に相関した。一方で、腎不全環境で蓄積する物質の変化や関連については、ヘプシジンが貯蔵鉄フェリチンと正の相関を示し、透析導入後には低下する傾向を示した。しかしながら、多くのサイトカインやタンパク結合性の尿毒症物質は透析導入期に変化を認めなかった。さらに、一部の尿毒症物質は栄養不良と逆相関する傾向を認め、必ずしも尿毒症物質の蓄積が栄養不良やエリスロポエチン抵抗性病態とは一致しないことが解った。 ところで、マウスの腎尿細管周皮細胞を用いた実験系は、腎尿細管周皮細胞を単離後の選択的な培養が困難で、培養細胞を用いて、候補となる尿毒症物質存在下でエリスロポエチン生産能を確認する実験系は断念せざるを得なかった。 そこで、これまでの解析結果から、腎不全による環境変化が貧血に影響を及ぼすと想定されるため、導入期腎不全患者の代謝物質や尿毒症物質について詳細に検討することとし、尿毒症物質測定、メタボローム解析を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、透析導入期末期腎不全患者の患者背景や臨床検査データなどについて作成したデータベースと、測定した尿毒症物質やメタボローム解析の結果から、腎性貧血や不応性病態と関連の深い各種候補物質の探索を行う予定である。得られた結果については、学術論文として発表を予定している。 腎不全患者の腎性貧血に関連する臨床病態として、栄養状態や導入後に速やかに改善するアシドーシス環境が挙げられる。そこで、貧血関連因子だけでなく、透析前後やアシドーシスの有無、栄養指標と関連する物質に着目して、測定した尿毒症関連因子や代謝物質の解析を進めていく。さらに尿毒症物資・腎性貧血マーカーとしての検証は、毒性試験としての細胞障害能(MTTアッセイ)、酸化ストレス産生能(ROSアッセイ)、EPO産生抑制能、抵抗性(産生細胞と低酸素実験)を行う。さらに長期予後についてもデータ収集を行い、病態との関連に加えて、予後マーカーとしての可能性についても検討を進める予定である。 貧血病態や臨床予後と関連の深い尿毒症関連因子や代謝物質の存在が明らかとなれば、腎性貧血の病態解明の新たな一助になることと考えられる。現時点では臨床で使用可能な治療はエリスロポエチン製剤のみであるが、エリスロポエチン抵抗性を示す患者においても新たな腎性貧血治療としての可能性に繋がると考えている。
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Research Products
(7 results)