2016 Fiscal Year Research-status Report
膜裏打ちタンパクの制御による臓器特異的ながん多剤耐性の非働化
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15K08078
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
荻原 琢男 高崎健康福祉大学, 薬学部, 教授 (80448886)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢野 健太郎 高崎健康福祉大学, 薬学部, 助手 (40644290)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | P-糖たんぱく / MRP / BCRP / 腎臓がん / 消化管がん / トランスポーター / 多剤耐性 / 組織差 |
Outline of Annual Research Achievements |
P-glycoprotein (P-gp) をはじめ、Multidrug resistance associated proteins (MRPs) やBreast cancer resistance protein (BCRP) は細胞外へ薬物を排出することで、多剤耐性に寄与している。28年度では肺がん細胞のP-gpと、消化管および腎臓がんのMRPsおよびBCRPの機能調節に関して検討した。 がん細胞はepithelial-to-mesenchymal transition (EMT) 化によって、高い浸潤性を示すとともに転移を起こす。このとき、抗がん薬に対する耐性や悪性度をも亢進させるため、EMT化は特に肺がん患者の予後に大きく影響する。EMT化を誘導する転写因子のひとつとして、Snailと呼ばれるタンパク質に着目して検討を行なったところ、Snailを過剰発現させた肺がん細胞においてはP-gpの輸送機能が亢進し、その結果として抗がん薬に対する耐性が高まることを明らかにした。さらにこのとき、膜タンパク質の機能を調節する分子であるcaveolinが、脱リン酸化されていた。以上のことから、リン酸化したcaveolinの減少によってP-gpの機能抑制が解除され、P-gpの輸送機能が亢進したものと考えられた。 また、BCRPの輸送機能調節において、ヒト消化管がん由来細胞ではERMいずれも関与していなかったが、ヒト腎臓がん由来細胞においては、Radixinが調節因子として機能していた。また、MRPにおいては 上記消化管がん細胞ではRadixinが関与しているとする報告があるものの、BCRPにおいてはERMいずれも関与していなかった。したがって、これまでの我々の報告も併せて考察すると、BCRPとMRPいずれも組織によって調節因子が異なっていることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度では、足場タンパクの調節によってヒトがん細胞の多剤耐性を網羅的に抑制できるかを明らかにするため、①EzrinおよびMoesinによるトランスポーターの機能調節 (Radixinによる調節が確認されなかった細胞)、②担がんマウスにおけるERM阻害の有用性、③トランスポーターの輸送機能発現におけるリン酸化シグナル因子RhoA/ROCKの関与を明らかにすることを計画とした。 ①ヒト腎臓がん由来細胞としてCaki-1細胞、ヒト消化管がん由来細胞としてCaco-2細胞を用いて各種排出系トランスポーターの遺伝子発現抑制実験を行ない、適切な条件を得た。本条件を用いてBCRPおよびMRPの輸送機能をそれぞれの基質薬物を用いて評価したところ、Caki-1細胞ではRadixinの発現を抑制したときにBCRPの機能低下が確認された。一方、MRPはERMいずれによっても調節されていなかった。さらに、Caco-2細胞においてはMRPの機能調節にRadixinが関与しているとする報告があるものの、BCRPの機能調節にはERMいずれも関与していなかった。以上より、Caco-2細胞のMRPとP-gpはいずれもRadixinによって調節されていたことから、消化管がんの治療においてRadixinの機能抑制薬を用いることで、薬剤耐性に関わる複数の排出系のトランスポーターを同時に抑制でき、様々な抗がん薬あるいはそれらを組み合わせた治療の有用性を高めることができるものと考えられた。②担がんマウスの作製は十分な成功率に至り、ヌードマウスを用いて検討を行なう段階である。③P-gpの機能調節に抗がん薬の苦味受容体を介したRhoA/ROCKなどのリン酸化シグナルが関与しているという知見を得ている。したがって、当初の予定は、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画どおり、まずMRP および BCRP の輸送機能が、 ERM いずれのタンパクによって調節されているのかを各種がん細胞ごとに検討する。並行して、ERMとトランスポーターの関連性が確認されたがん細胞に対して、small interfering RNA (siRNA) あるいはclustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated proteins (CRISPR-cas9) などの遺伝子編集技術を用いて、ERM各タンパクの遺伝子発現を抑制した細胞を作製する。さらに、その細胞にMRPやBCRPの基質薬物を取り込ませ、一定時間後にその薬物の細胞内蓄積量を測定することで、排出系トランスポーターの輸送機能を評価する。次に、上記in vitro研究でERMの発現抑制およびP-gpの輸送機能低下が確認されたがん細胞をマウス皮下に注入し、担がんマウスを作製する。この担がんマウスに、排出系トランスポーターの基質薬物となる抗悪性腫瘍薬を投与し、薬物の腫瘍集積性の増大および抗腫瘍効果の増強を確認する。以上の検討の結果については、論文発表等を通して広く公開し、「ERMの機能抑制薬を用いることは、排出系トランスポーターによって運ばれる抗悪性腫瘍薬のがん組織移行性を高め、薬効を増強するために有用である」ことを示す。またこのとき、他の組織へのERM発現抑制による影響を確認することで、安全性を評価する。 29年度末までには足場タンパク自体の抑制とその活性化因子の抑制のいずれの方法が、抗がん薬による担がんマウスの腫瘍縮小効果の増強および正常組織への毒性回避に有用であるのかを示すことができ、新規創薬標的を提案できるものと考えている。
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