2015 Fiscal Year Research-status Report
腎不全に伴う抑制性中枢神経系の機能変調機構の解明と抗不安鎮静薬の個別化処方設計
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15K08097
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
合葉 哲也 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (00231754)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北村 佳久 岡山大学, 大学病院, 准教授 (40423339)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 投与設計 / 腎不全 / 中枢神経系 / PK/PD |
Outline of Annual Research Achievements |
末梢臓器不全患者に対する薬物投与設計では、投与薬物の血中濃度推移や治療標的の薬物感受性の変化に配慮する必要がある。例えば、腎不全患者に見られるように、障害臓器の腎臓を直接の排泄臓器とする薬物の場合は無論のこと、その他、肝代謝型薬物のように、腎臓を排泄臓器としない場合にも、薬物の血中濃度推移や薬理効果は大きく変動する。こうした薬物動態や薬理効果の変動は、薬物療法の個別化至適化を図る上でしばしば問題とされるものの、そのメカニズムが未解明であることから、それが実臨床で考慮されることはなく、画一的な用法用量が適用されている。こうしたことから申請者は、末梢臓器不全に伴って、特に薬理効果が変動するメカニズムの解明を目的に研究計画を立案し、その初年度となる平成27年度は、病態モデル動物を用いて末梢臓器不全が薬物感受性に及ぼす影響を実験室レベルで精査した。対象薬物には、豊富な先行知見の蓄積によって実験結果の検証が容易な中枢神経系作用薬フェノバルビタール並びにミダゾラムを選択した。申請者らが先に確立した脳室内薬物直接投与法を用いて、これら薬物の中枢神経系抑制効果の発現を腎不全モデルラットで経時的に検討した結果、フェノバルビタールの場合には腎不全に伴う薬効の増強が認められたものの、ミダゾラムの場合にはこの増強が認められなかった。両薬物はともにGABA作動性抑制性神経細胞に発現するGABA-A受容体に結合することで薬理効果を発揮する。こうしたことから、次いで大脳皮質におけるGABA-A受容体の発現量をウエスタンブロット法により評価したところ、GABA-A受容体の発現量は腎不全の影響をほとんど受けない或いは僅かに減少することが示された。これらの結果から、腎不全に伴う薬効変動は、薬物標的部位GABA-A受容体への薬物結合様式或いは受容体を構成するサブユニットの変化に起因する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
腎不全時に中枢神経系作用薬の薬理効果の増強が認められるメカニズムの解明研究に着手するに当たり、先ず作業仮説として、薬物作用部位であるGABA-A受容体の大脳皮質における発現上昇を想定した。一方、抗GABA-A受容体抗体を用いて摘出脳組織を対象にウエスタンブロット法を実施したところ、GABA-A受容体の発現量に及ぼす急性腎不全の影響はそれほど大きいものではなく、受容体の発現量の変動をもって病態時の薬理効果の発現変動を説明することは困難であった。薬理試験の対象とした中枢神経系作用薬フェノバルビタールは、GABA-A受容体のβサブユニットに結合する。こうしたことから、現在、作業仮説を修正し、即ち、腎不全に伴いGABA-A受容体にサブユニット特異的な構造変異が導入されること、これにより、リン酸化反応の変調が惹起されることを想定して実験を立案し、研究を進めている。なおこの場合、フェノバルビタールと同様にGABA-A受容体を作用標的とするものの、結合サブユニットが異なるミダゾラムの場合には、腎不全群で観察される中枢神経系抑制作用の変動がフェノバルビタールとは異なることを示す必要がある。実験動物ラットにおけるミダゾラムの中枢神経系抑制効果は、フェノバルビタールの薬理効果とは異なり、その前段階として興奮惹起を伴う弱い鎮静作用として観察される。したがって、こうした薬理効果を正確に評価する当たり、フェノバルビタールの場合とは異なる薬理効果評価系を確立する必要があった。この評価系確立に若干の時間を要し、よって当初の実験計画の進捗率が停滞したことから、研究達成度をやや遅れていると評価している。なお、既に新たな評価系の確立作業は終了していることから、全体の研究計画が変更されることはない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画次年度は、先ず、中枢神経系作用薬の薬効を評価する当初計画のうち、初年度に未達となったミダゾラムを用いた試験を実施してこれを完了する。この試験では、GABA-A受容体への結合部位が異なる場合、腎不全に伴う薬理効果の増強が異なって観察されることを示す。次いで、各薬物の結合部位となっているGABA-A受容体のサブユニットについて検討を加える。なお、GABA-A受容体は3種類のサブユニットα、β、γから構成されるが、その組み合わせは脳組織の領域毎に異なることから、この試験では、脳組織各領域より採取した試料を対象に、RT-PCRの手法によってGABA-A受容体の各サブユニットの発現をmRNAレベルで検証し、腎不全に伴う発現量変化がサブユニット間並びに脳領域間で異なることを示す。これにより、腎不全がGABA-A受容体サブユニット特異的に影響を与えるメカニズムの一端を解明する。他方、腎不全時に薬物の脳組織内分布特性が変化する可能性も否定できない。これについては、既に確立している薬物の脳組織内直接投与法の応用により、脳組織の領域限局的にGABA-A受容体遮断薬の微量投与を行い検証する。即ち、腎不全時に観察される薬理効果の増強が、GABA-A受容体遮断薬の領域限局投与により消失することを示し、腎不全時の薬効変動と脳組織内の薬物分布特性の変化の関係を示す。なお、これと併せて、中枢神経系作用薬の薬効発現に対する覚醒性神経系の関与の検討実験に順次着手する他、一連の実験と平行して、共同研究者と協働し、中枢神経系作用薬の実臨床における使用状況と治療効果の関係に関する遡及的解析を引き続き行い、よって、研究目標の計画通りの達成を目指す。なお、これら研究で得られた知見は関連学会において適宜報告開示するとともに、学術専門誌上にて公表する。
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Causes of Carryover |
研究計画初年度は、実験計画の一部見直し作業が必要となったため実験が遅滞し、この間、試薬および実験消耗品の購入が計画を下回った。この他、研究計画申請時に計上していた実験機器がより廉価で納品され、その差額分も未執行分を積み上げることになった。結果として、年度末時点で配分額のうち、約30万円が未執行であった。なお、実験は初年度後期後半から計画通りに遂行されており、これにより年度を跨ぐ期間にこの未執行額の相当分を執行している。よって、実質上の次年度使用額は計画額とほぼ同等であると考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究費は今後、計画通りに執行される予定である。研究機材や実験消耗品も適宜購入可能であって、研究の遂行に支障をきたす状況は認められない。従って、平成28年度は当初計画を特に変更することなく、配分経費を執行する。
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