2017 Fiscal Year Research-status Report
腎不全に伴う抑制性中枢神経系の機能変調機構の解明と抗不安鎮静薬の個別化処方設計
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15K08097
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
合葉 哲也 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (00231754)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北村 佳久 岡山大学, 大学病院, 准教授 (40423339)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 投与設計 / 腎不全 / 中枢神経系 / PK/PD / 個別化医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
腎臓などの末梢臓器に生じた機能不全が進行し重症重篤病症例となった場合には、障害された末梢臓器への治療効果のみならず、中枢神経系すなわち脳神経系への薬物作用も変化する。この変化のひとつの要因が薬物に対する中枢神経系の感受性の変化である。薬物の標的組織に生じるこの感受性変化は、薬物療法の個別化至適化の適切な遂行に際して理解すべき重要な因子であり、その変化機構の解明は喫緊の問題になっている。申請者は、研究課題として、こうした薬効変動のメカニズム解明を掲げ、研究計画第2年度までに研究の効率的遂行に必要な重症重篤病症例の動物モデルである実験的急性腎不全ラットを作成して、これを用いるインビボ実験系を確立した。研究計画第3年度である平成29年度には、この実験系に依り、中枢神経系作用薬が標的とする大脳皮質のGABA-A受容体の機能変化について検討を加えた。GABA-A受容体を標的とする中枢神経系抑制薬フェノバルビタールの場合、病症群においてその中枢抑制作用が増強が観察された。他方、GABA-A受容体をを標的としない中枢神経系抑制薬のカルバミン酸エチルの場合、抑制作用の増強は観察されなかった。よって病症群での薬効変動はGABA-A受容体の機能変化に因ることが明らかとなった。次いで、GABA-A受容体が神経細胞内への塩素イオン輸送機能を有すことに着目し、神経細胞の塩素イオン輸送担体NKCC1およびKCC2の発現量を評価した結果、病症群ではKCC2の発現量低下が認められた。従って、病症時には中枢神経細胞の塩素イオン輸送担体の発現量が変化し、電位平衡が対照群とは異なるレベルで維持されていることが強く示唆された。病症群においては、こうした電位平衡の変化によって活動電位が抑制されやすい状況が形成され、これが中枢抑制性作用薬の薬効増強として反映されていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
重篤重症病症時に中枢神経系抑制薬の薬効が増強するメカニズムについては、研究計画第2年度までに大脳皮質のGABA-A受容体が機能変調を起こすこと、そしてその変調が量的なものではなく、質的なものであることを示唆する知見を得ている。即ち、GABA-A受容体の発現量は、薬効増強が観察される重症病症時には逆に低下する。また、薬物の脳室内直接投与法を用いたブメタニド処理により、ラット大脳組織の細胞内塩素イオン濃度を変化させ、その影響を対照群と病症群で比較した結果、対照群で観察される硬直性痙攣発作の惹起を病症群では認めなかった。これらの結果は、病症群では塩素イオンが関与する神経細胞における活動電位の抑制機能の亢進を示唆しているが、未だここにおける塩素イオン濃度の変化メカニズムは不明のままである。研究計画第3年度ではこの変化メカニズムの解明に焦点を絞り、種々の検討を行った。神経細胞では塩素イオン輸送を担う2つの電解質輸送担体NKCC1及びKCC2が発現し、それぞれ神経細胞における塩素イオンの流入と排出を行って神経細胞膜の電位平衡を調節している。病症群におけるこれらの塩素イオン輸送担体の発現量を評価したところ、NKCC1の発現量の変化は認められなかったもののKCC2の発現量の低下が認められ、神経細胞は塩素イオン排出優位な状態にあることが明らかとなった。神経細胞における塩素イオン濃度の変化メカニズムは、このNKCC1とKCC2の発現バランスの変化により説明可能である。しかし、KCC2の発現量が変化するメカニズムの詳細や、発現量変動と神経細胞内の塩素イオン濃度の変化の関係は現時点では直接証明することができていない。このため、病症に伴う中枢神経系作用薬の薬効増強機構の本質は未だ解明されておらず、よって研究計画はやや遅れていると評価するのが適当である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最終年度となる平成30年度は、中枢神経細胞の塩素イオン調節機構が重症病症時に変調するメカニズムを詳細に検討する。神経細胞における塩素イオン輸送担体KCC2の発現は、脳由来神経栄養因子BDNFがその受容体TrkBを刺激することで抑制される。このことから、末梢臓器の機能低下に伴って脳中枢組織におけるBDNF濃度が上昇する可能性があり、これがKCC2の発現量低下を引き起こすと想定される。よって、対照群と病症群において脳組織内BDNF濃度を測定する。また、BDNFの作用発現には受容体TrkBへの結合が必要である。BDNFの結合により受容体TrkBはリン酸化されることから、TrkBのリン酸化の程度もあわせて評価し、病症群では脳内BDNF濃度が上昇し、TrkBのリン酸化が亢進していることを示す。なお、TrkBのリン酸化は脳組織の限定された領域で生じている可能性が否定できない。このため、対照群および病症群の両群で摘出脳組織切片を作成し、免疫二重染色の手法により、脳組織におけるTrkBリン酸化を俯瞰的に評価する。あわせて、共同研究者とともに、臨床での中枢神経系作用薬の処方状況と治療効果に関する遡及的解析を進め、研究目標の計画通りの達成を目指す。これらの研究成果は関連学会において適宜報告開示するとともに、学術専門誌上にて公表する。
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Causes of Carryover |
(理由)研究計画の第3年度の前半に動物実験が遅滞し、このため年度の後半に予定していた学会参加を見送りとした。このため、また、実験消耗品の購入額が減少した他、学会参加にかかる費用が未消化となり、年度末時点で約15万円が未執行となった。なお、研究計画は年度後半からおおむね順調に推移しており、これにともなう試薬や消耗品の購入量増加によって、未執行額の相当分が早々に執行済みとなる予定である。 (使用計画)平成30年度の配分研究費は当初計画通りに執行する予定である。
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