2015 Fiscal Year Research-status Report
薬剤性腎障害における尿中バイオマーカーの調節分子機構の解明と臨床応用に関する研究
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15K08099
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
矢野 貴久 九州大学, 大学病院, 薬剤主任 (90532846)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 薬剤性腎障害 / 尿細管上皮細胞 / アポトーシス / ミトコンドリア / 活性酸素種 / バンコマイシン |
Outline of Annual Research Achievements |
(研究目的)薬剤性腎障害は、診断もしくは治療のために使用した医薬品による有害反応であり、その発現により治療の継続が困難になると共に、予後が極めて不良になることから、実臨床において解決すべき問題の一つとされている。本研究では、臨床現場において腎障害を高頻度で引き起こす抗がん薬や抗菌薬、ヨード造影剤、免疫抑制薬等の薬剤を対象とし、各薬剤による腎障害の発現機序やバイオマーカーの調節分子機構を解明し手がかりにすることで、有用な尿中バイオマーカーの同定や評価を行い、早期の臨床応用へと発展させることを目的とする。初年度においては、尿細管上皮細胞障害に着目し検討を行った。 (研究方法)ブタ腎由来培養上皮細胞LLC-PK1に、抗MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)薬バンコマイシン(VCM)を曝露して細胞障害を誘導し、PrestoBlue試薬による生存率の評価およびTUNEL染色法による細胞死の評価を行った。各種タンパク質の発現は特異的抗体を用いたWestern blot法にて評価した。ミトコンドリア機能は、ミトコンドリア膜感受性試薬JC-1を用いて評価した。 (研究成果)VCMをLLC-PK1細胞に処置すると活性酸素種(ROS)の産生増加やミトコンドリア機能障害に基づくアポトーシスが引き起こされ、それらの障害はミトコンドリア脱共役薬の併用によって抑制されたことから、VCMによる尿細管上皮細胞障害にはミトコンドリアが重要な役割を担うことが明らかとなった。加えて、脂溶性抗酸化薬ビタミンEやミトコンドリア標的抗酸化薬mitoTEMPOを前処置すると、VCMによるLLC-PK1細胞の障害は有意に抑制されたが、水溶性抗酸化薬であるビタミンCやNアセチルシステイン、グルタチオンは効果を示さないことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は薬剤性腎障害の分子機構の解明を目的として尿細管上皮細胞障害に着目し、培養尿細管上皮細胞を用いたin vitroの検討を主として実施した。その結果、抗MRSA薬バンコマイシンによる尿細管上皮細胞障害の発現機序の詳細が明らかとなり、特に、ミトコンドリア機能障害や活性酸素種の産生増加が、尿細管上皮細胞障害発現の起因として重要であることを見出だした。加えて、抗酸化薬の中でも脂溶性抗酸化薬やミトコンドリア標的抗酸化薬が障害の低減に有効であるという保護薬物に関する新たな知見が得られた。また、in vivoでの検討についても、計画通りマウスやラットを用いて薬剤性腎障害のモデル動物の作製を実施し、特にバンコマイシンについては、in vitroでの成果を基にした分子機構の解明や保護薬物の評価、さらには尿細管上皮細胞障害に着目した尿中バイオマーカーの検討に着手している。 以上のことから、初年度における進捗状況はおおむね順調であることが考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
(薬剤性腎障害に特異的な尿中バイオマーカーの同定)既存および新たに作製した薬剤性腎障害のモデルラットあるいはマウスを用いて、腎障害発現分子機構のさらなる解明を行うと共に、腎障害を早期かつ特異的に検出可能な尿中バイオマーカーの同定を行う。対象薬剤は、抗菌薬のバンコマイシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、抗真菌薬のアムホテリシンB、抗がん薬のシスプラチン、免疫抑制薬のタクロリムス、造影剤のイオベルソール、イオヘキソールとし、各薬物の投与開始から24時間毎の尿を代謝ケージにて採取し試料とする。新規尿中バイオマーカー候補分子を探索するために、ラット単離尿細管を用いたマイクロアレイ解析を実施する。新たに得られたバイオマーカー候補分子については、ヒト尿試料を用いた臨床研究を行い、有用性を評価する。 (臨床研究における評価)ヒト尿試料を用いた薬剤性腎障害に対する尿中バイオマーカーの有用性評価については、すでに九州大学医系地区部局ヒトゲノム・遺伝子解析倫理審査委員会より許可を受けており(「臨床で有用性の高い薬剤性腎障害バイオマーカーの探索に関する研究」(許可番号:588-00))、実施する体制が整っている。対象薬物を投与し、かつ文書にて同意が得られた患者から尿を採取し、尿中バイオマーカーの測定ならびに有用性評価を行う。特に、既存の急性腎障害バイオマーカーについては、薬剤ならびに障害機序の特徴に基づいて複数のバイオマーカーを組み合わせることで腎障害の検出力や有用性が高まる可能性が考えられることから、研究協力者であるBonventre教授(米国ハーバード大学)より技術的支援を受けて、複数バイオマーカーの同時測定系の新規構築に着手し、併せて実施する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、投稿論文の英文校正費用として10万円、研究成果発表費用として10万円の計20万円をその他の支出として見込んでいたが、初年度には論文発表を行わなかったため、約17万円を次年度に繰越して使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越し分については、初年度の成果を論文として発表する際に、当初の計画の通り英文校正費用ならびに研究成果発表費用として使用する。 一方、次年度分として請求した助成金についても、当初の計画の通り、実験動物や試薬等の消耗品費ならびに、次年度における成果発表費用として使用する。
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Research Products
(2 results)