2015 Fiscal Year Research-status Report
細胞外pHの酸性化がLPA受容体を介した関節リウマチ病態形成を促進するしくみ
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15K08122
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
野地 裕美 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (30183552)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 康一 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (30291149)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 関節リウマチ / 滑膜細胞 / プロトン感知性受容体 / COX-2 |
Outline of Annual Research Achievements |
関節リウマチ(RA)の関節腔内では、滑膜細胞が著しく増殖してパンヌスを形成する。このような激しい炎症が生じているRA関節腔内では、関節滑液のpHが酸性に傾いていることも知られており、関節内の局所的酸性化がRA病態の増悪に寄与している可能性が考えられる。本研究では、炎症によって生じる局所的なアシドーシスがプロトン感知性受容体を介して滑膜細胞に炎症応答を誘発するしくみを解析し、RAの病態形成に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。平成27年度では、滑膜細胞におけるプロトン感知性受容体の発現と機能、細胞外pHの酸性化が誘発する細胞内シグナリングのしくみについて検討し、以下の事実を見出した。 ①RA滑膜細胞(RASC)、正常ヒト関節滑膜細胞や正常ヒト線維芽細胞には、プロトンを感知する受容体のうちOGR1が主に発現していた。特に、患者関節内で炎症性の刺激を受けていたRASCではOGR1が高発現しており、その発現量は非炎症性の正常細胞の約10倍であった。 ②RASCを酸性条件下で培養するとpHの低下に伴いCOX-2の発現量とPGE2生成量が増大した。しかし、正常細胞をpH6.2の酸性環境下で培養してもCOX-2の発現量は変化しなかった。 ③細胞外pHの低下は、RASCのp38 MAPKのリン酸化反応を強く亢進した。さらに、p38 MAPK阻害剤は、細胞外pHの酸性化により誘発されるCOX-2の発現を強く抑制した。 ④酸性環境下で誘発されるp38MAPKのリン酸化反応、COX-2の発現及びPGE2生成の亢進は、OGR1のノックダウン、あるいはGq阻害剤によって強く抑制された。 以上の結果より、細胞外pHが低下すると、Gqが共役するOGR1を介してp38 MAPKが活性化され、COX-2の発現が誘発されると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度では、①RA滑膜細胞(RASC)には正常ヒト関節滑膜細胞に比べ、プロトン感知性受容体であるOGR1が高発現していること、②RASCの細胞外環境が酸性化すると、OGR1→Gq→p38MAPKの系を介して、COX-2の mRNAおよびタンパク質発現量が増大すると共にPGE2生成反応が亢進することを明らかにした。このCOX-2 発現に至るシグナリング経路の解析によって、関節滑液のアシドーシスがRAの病態形成において重要な役割を果たしていることを示唆する結果が得られた。このように、培養細胞を用いたin vitroでの研究計画は概ね順調に進展している。一方、RAモデルマウスを用いたMRIによるRA関節炎の可視化を目的としたin vivoでの研究計画に関しては、まだ関節炎診断法の確立に至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度では、細胞外微小環境の変化がRAの病態形成に及ぼす影響を解析する過程で、RASCは細胞外pHが低下するとRASCではOGR1を介して炎症応答が誘発されることを明らかにした。 平成28年度は、関節破壊に重要な役割を担う細胞外マトリックス(ECM)分解酵素に対する細胞外pHの低下の影響を解析する。特に、コラーゲンやプロテオグリカンを主に分解するMMP-1やMMP-3、および主にアグリカンの分解に寄与するアグリカナーゼ1(ADAMTS-4)やアグリカナーゼ2(ADAMTS-5)に焦点を当てて、これらの発現や活性化に及ぼす影響を解析する。 また、RAにおいて、サイトカインや脂質メディエーターなどの複数の炎症性メディエーターが協働して関節炎を進行させ、関節破壊をもたらすことが知られている。我々は、RASCを炎症性サイトカインのIL-1βと脂質メディエーターとして知られているリゾホスファチジン酸を共存させて培養すると、COX-2の発現が相乗的に増大することを見出している。そこで、関節組織内のアシドーシスが、炎症性サイトカインや脂質メディエーターで誘発されるRASCの炎症応答に及ぼす影響を検討する。 さらに、RAモデルマウスでのMRIによる関節炎診断法の確立を試みる。
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Causes of Carryover |
MRIによる関節炎診断法の確立を試みるためには、RAモデルマウスと関節炎を誘発させるための薬剤を購入する必要がある。平成27年度はこの実験計画の遂行が遅れたため、これらの購入による支出は当初の予定額よりも少なくなった。その結果、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に生じた次年度使用額は、実験動物とコラーゲン誘導関節炎を発症させる薬剤の購入に充てる計画である。
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