2015 Fiscal Year Research-status Report
四肢動物の祖先モデルとしての古代魚ポリプテルスの実験動物化にかかる基盤整備
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15K08145
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
岡部 正隆 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (10300716)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢野 十織 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (10648091)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ポリプテルス / 発生 / 進化 / 遺伝子組換え |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題ではアフリカ原産のポリプテルス(P. senegalus)が条鰭類のなかで最も古くに分岐したグループであるという系統分類学的な有用性を最大限に生かし、発生学・遺伝学・分子生物学などの多岐にわたる分野において国内外で研究推進がなされることを目指し、その基盤技術開発を行う。本年度は(1)採卵法の改善と(2)遺伝子組換え個体作製に成功した。 (1)ポリプテルスは雌雄が長時間にわたって交尾を行うために発生が同調した卵を得ることが困難であること、卵膜の粘着性が高いために卵の採取や取り扱いが困難である、といったモデル動物には無い取り扱いづらさがあった。そこでまずは人工授精技術の確立を達成するために、自然交配で卵を得ることができなくなった老齢個体を用いて卵の摘出と活性のある精子の凍結保存法を整備した。本年度はポリプテルスの国内流通量が少なく人工授精を十分に行うことができなかったが、従来通りの雌雄交配法により多数の受精卵・胚を採取し国内外で共同研究を展開した。また卵の採取や取り扱い方法を改善すべく受精卵の培養液を工夫し、ごく短時間のうちに受精直後の新鮮な卵を準備することが可能となった。 (2)(1)で達成された卵培養液の改善により、本研究課題開始以前に一度として成功することの無かった遺伝子組換え技術を確立した。具体的にはゼブラフィッシュにおける遺伝子組換え技術と同様にして、Tol2 transposonを利用したEGFP導入胚を作製した。これら個体は表皮や筋など多様な組織において受精後2日目から給餌開始時期(受精後10日)を超えてGFPの蛍光を観察できた。また導入個体によっては体の半身のみでGFPの蛍光を有した。これは魚類における遺伝子操作実験においてハーフトランスジェニック解析が可能であることを意味する非常に重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は人工授精法の確立を達成することができなかったが、その可能性を考慮した上での研究計画を立案していたため順調に研究遂行することができた。特に遺伝子組換え技術が研究初年度に成功したことは大きな成果である。両生類で広く用いられる遺伝子組換え法など多様な手法を試行したが、最終的には卵培養液の工夫によりゼブラフィッシュ同様の手法で容易に遺伝子組換え個体を得られるようになったメリットは大きい。 本研究計画ではこれら以外にもCRISPR/Cas9システムを利用したゲノム編集技術の樹立を目指している。標的遺伝子・ゲノム配列を認識するgRNAは既に作製済みで、受精卵が得られ次第検討を行う予定である。 国内外で唯一研究室内での受精卵採取が可能なうえ、本年度の進捗状況を踏まえると多様なな研究展開が可能である。本年度は国内5件(うち2件は研究室内のテーマとして)、国外1件の研究課題が遂行され、うち3件については論文受理に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時に計画された人工授精法の確立とゲノム編集技術の確立が次年度になされれば、本研究課題は十分に達成できたと言える。したがって上記の技術整備と並行してこれら技術を用いた発展課題を新たに追加してさらなる研究の進展を次年度は目指す。具体的にはポリプテルスを用いた新規課題3件(研究室内のテーマとして)を開始するために、研究分担者の矢野が発生学的解析の研究をスタートする。また1名のポスドク研究員を次年度4月より採用することを決め、研究協力者として研究推進力を加速させる。さらには博士課程後期の大学院生1名を次年度4月より受け入れることに決め、研究協力者として人工授精法の技術整備と進化発生学分野の研究課題を新たにスタートさせる。 懸念される事項として、ポリプテルスの国内流通量が近年少ないことと、所属機関における飼養設備が飽和状態にあることがある。胚から成魚までの成長に現設備では約1年半~2年を要しており、自家繁殖で個体数を賄えきれない可能性がある。したがって少数の動物資源でも研究が遂行できるよう、技術精度と研究計画のブラッシュアップを常に念頭において研究室一丸となって目的の達成を目指す。
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Causes of Carryover |
現在稼働中のサーマルサイクラーの使用年数が10年を超えたことで故障による廃棄が頻繁に起きたため、本研究課題における遺伝子組換えベクター作製に支障が出ることを危惧し、本年度(研究初年度)の初めにサーマルサイクラーを1台購入予定であった。しかしポリプテルスの成魚を購入する費用が本年度初めに予想以上にかかり、これが繁殖に十分な個体かを見極めるのに時間を要した。成魚個体を再度購入する可能性を本年度中に排除できなかったため、サーマルサイクラー購入を次年度へ延期した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
延期したサーマルサイクラーの購入は次年度に執行予定である。一方で昨年度末よりポリプテルス雌雄交配成功率が下がり始めたため、次年度も成魚の購入を予定している。したがって購入するサーマルサイクラーの機種・価格を再検討し、研究遂行に支障の出ないよう図る。
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