2016 Fiscal Year Research-status Report
消化管粘膜上皮における化学物質受容機構に関する研究
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15K08182
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
桑原 厚和 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (60142890)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脳腸相関 / 散在性化学物質受容機構 / 高次脳機能 / エネルギー制御 / 恒常性維持機構 / 腸内細菌 / メタボリックシンドローム |
Outline of Annual Research Achievements |
「腸は心の鏡」と言われるように、古くから、また経験的にも脳と腸との間には緊密な機能的相関(脳-腸相関)があることが知られている。しかしながら、この機能的相関についての科学的な知見はほとんどないのが現状である。近年、特に2005年以降、消化管の粘膜上皮にも味覚を受容する受容機構と類似の化学物質受容機構の存在が明らかになり、この受容機構はdiffuse chemosensory system(散在性化学物質受容機構)とも呼ばれ、外界からに異物の侵入が容易な呼吸器系や消化器系でよく発達している。散在性化学物質受容機構は、外界から侵入する各種の化学物質や腸内細菌などの常在細菌が有する膨大な遺伝情報を基に作られる化学物質の質や量をモニターしており、その情報により局所の消化管機能や生体全体のエネルギーバランスの制御、さらには高次脳機能制御にも関与しているのではと考えられるようになってきた。しかしながら、消化管からの情報がどのような機構で脳に伝えられ、さらにその情報がどのような機構で生体の恒常性維持に寄与しているかについては、ほとんど明らかではない。その理由として、脳-腸相関を駆動するための最初のステップとなる消化管での化学物質受容機構に関する知見の集積が不十分であることがあげられる。 本年度は、上述の観点から消化管における化学物質受容機構について組織学的及び生理学的観点から明らかにしようと企画した。 本年度は、以前から申請者らが同定してきた化学物質受容細胞に加え、腸管粘膜上皮に存在する化学物質受容細胞の同定と細胞内に含まれる情報伝達物質についての検索を行い、新しくXeninというペプチドが消化管の上皮細胞に発現していることを明らかにした。この新規ペプチドXeninは消化管局所のイオン輸送や消化管運動にも影響することを明らかにし、第94回日本生理学会大会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先行研究によりL型腸内分泌細胞やBrush細胞が消化管内腔に存在する化学物質を受容するセンサー細胞と考えられてきた。しかし、近年、遺伝子改変動物を用いた実験などから、腸の内分泌細胞は1種類の消化管ホルモンを含むのではなく、外部環境の変化により、その発現挙動を変化させ数種類の消化管ホルモンを同時に発現させていることが明らかになってきた。そのため、昨年度に引き続き消化管ホルモンの発現動態について再検討中である。これが、本研究進捗の遅れの原因である。しかしながら、研究概要で述べたように、申請者はXeninという新規ペプチドが消化管で生理作用を発揮することを明らかにし、本年度はXeninに対する特異抗体を作成し、その発現分布の解析を開始した。さらに、先行研究によりXeninはNeurotensin receptor type 1 (NTR1)と同様の受容体を介して作用を発現することが報告されているが、この点については上部消化管で我々も確認した[J. Pharmacol. & Exptl. Ther., 361(1): 151-161, 2017]。しかしながら、申請者が下部消化管で行った実験ではNTR1阻害剤を用いてもXeninによる平滑筋に対する抑制反応には影響しなかった。このことは、下部消化管ではXeninはNTR1とは別の受容体を介して生理作用を発現している可能性を示唆している。そこで、現在Xeninに対する各種鎖長の異なるフラグメントを作成し、受容体を特定する計画に着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
管腔内刺激により化学物質受容体活性化後の情報伝達系を解析するために解析用チャンバーの改良をさらに加える予定である。
また、化学物質受容細胞から脳への情報伝達機構を明らかにするために、化学物質受容細胞と求心性神経との三次元配置の解析が重要である。現在は、その解析のための方法論を構築中である。
本年度は昨年度の研究の遅れを取り戻せたので、次年度に向けての抗体作成やフラグメント作成に着手し、それらを使用して脳-腸相関の解析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
現在までの進捗状況で述べたように、新しく基礎的な解析を行う必要が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
化学物質受容細胞刺激により放出されると考えられる消化管ホルモンなどを含む化学伝達物質放出動態の精度を向上させるためと効率化の費用として計上する。また、抗体作成やフラグメント作成のための費用として繰り越し経費を使用する予定にしている。
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Research Products
(7 results)