2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K08225
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology |
Principal Investigator |
内田 さえ 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (90270660)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 嗅球 / コリン作動性神経 / 加齢 |
Outline of Annual Research Achievements |
嗅覚機能は加齢に伴う低下に加え,認知症のごく初期に顕著に低下することから,認知症の早期診断マーカーとして近年注目されている.嗅覚機能はその一次中枢の嗅球において,前脳基底部に由来するコリン作動性入力により調節されるが,この神経系の機能及び正常老化の過程は全く解明されておらず基礎研究が不可欠である.研究代表者はこれまでに認知機能に関連する大脳皮質のコリン作動性血流調節系の老化過程を動物実験で報告した.嗅球に投射するコリン作動性ニューロンは大脳皮質のそれに比べ数が少なく,従って老化の初期に機能低下が認められると予想された.本研究は,第一に嗅球のコリン作動性神経系機能に焦点をあて,その老化過程を解明し,さらに新皮質や海馬のコリン作動性神経系機能と比較することにより,嗅覚機能と認知機能の関連を解明することを目的とした. 平成27年度は,嗅球に入力するコリン作動性神経が,新皮質や海馬のように,血流調節を担う可能性を成熟ラットで調べた.麻酔ラットの嗅球の細胞外アセチルコリン(ACh)量と血流を測定し,嗅球に投射するコリン作動性神経の起始核(前脳基底部)をL-glutamateの微量注入により化学刺激した.嗅球の細胞外ACh量は前脳基底部の化学刺激により有意に増加した.一方,嗅球の血流は前脳基底部の化学刺激による影響を受けなかった.これらの結果は,新皮質や海馬とは異なり,嗅球に投射する前脳基底部コリン作動性神経はAChを放出するものの,血流に対しては影響を及ぼさないことを示唆する.嗅球においては,AChは血管よりもニューロンに対する作用が主要な働きである可能性があり,今後の課題である. 嗅球コリン作動性神経系の機能とその老化過程を,新皮質や海馬と比較・解明する本研究は,嗅覚機能と認知機能の関連をコリン作動性神経系を軸に解明するための生理的基盤として役立つと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究は,嗅球に投射するコリン作動性神経系機能の老化過程を解明し,新皮質や海馬と比較することを目的とする.嗅球とともに前脳基底部からのコリン作動性入力を受ける新皮質や海馬では,コリン作動性神経が血流調節を担うことが既に報告されている.このことから,嗅球に入力するコリン作動性神経の機能に,血流調節が予想された.しかし,嗅球の細胞外アセチルコリン(ACh)量をin vivoで測定する研究や,嗅球の血流に対する前脳基底部コリン作動性神経刺激の影響といった,機能的研究は,これまで全く調べられていない. 平成27年度の研究においては,嗅球の細胞外ACh量と血流におよぼす,前脳基底部刺激の影響を検討した.その結果,麻酔した成熟ラットにおいて,嗅球細胞外ACh量を測定することに初めて成功した.また,前脳基底部のブロカの対角帯核の水平脚(HDB)の化学刺激や電気刺激により嗅球細胞外ACh量が増加することが明らかとなった.一方,嗅球の血流に対しては,HDBの化学刺激は有意な影響を及ぼさないことが明らかとなった.嗅球の血流は全身血圧変化の影響を受けるため,本研究では嗅球血流と同時に全身動脈圧を連続記録し,HDB刺激の影響を観察することに注意を払った.嗅球の血流はHDBの電気刺激で変化する例も認められたが,通過線維が電気刺激された影響であると考えられた.27年度の研究成果を踏まえて,今後,嗅球に遊離されたAChが血管ではなく,ニューロンに作用する可能性を観察する必要性が考えられた.嗅球のコリン作動性神経系の機能とその老化過程を明らかにしようとする新規性,独創性の高い本研究課題において,27年度成果はおおむね順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究において,嗅球に投射する前脳基底部コリン作動性神経の化学刺激が,嗅球の細胞外ACh量を増加させるが,嗅球の血流には有意な影響を及ぼさないことが明らかとなった.これらの結果は,新皮質や海馬とは異なり,嗅球に投射する前脳基底部コリン作動性神経はAChを放出するものの,血流に対しては影響を及ぼさないことを示唆する.この結果を踏まえて,今後以下のことを検討し,本研究目的である嗅球コリン作動性神経系の機能とその老化過程を解明する. 1.嗅球細胞外ACh量の加齢変化:嗅球の細胞外ACh量について,安静時のACh量および前脳基底部刺激に対するACh放出反応の加齢変化を調べる.種々の強度で前脳基底部を電気刺激し,ACh放出を亢進させる閾値強度と最大強度について,加齢変化を明らかにする. 2.新皮質や海馬との比較:研究代表者のこれまでの研究で,新皮質における前脳基底部刺激に対するACh放出反応は,30ヶ月齢を超える超老齢に至るまで成熟ラットと有意差なく維持されることを報告している.嗅球支配のコリン作動性神経細胞の数は海馬や新皮質支配の細胞に比べて少なく,加齢による低下が皮質よりも嗅球において早期に観察されることが予想される.そこで,海馬や新皮質のACh放出反応についても検討し,嗅球の結果と比較する. 3.嗅球ニューロン活動のコリン作動性調節:嗅球に遊離されたAChは,血管よりもニューロンに対する作用が主要な働きである可能性が予想される.そこで,嗅球のニューロン活動を記録し,前脳基底部刺激に対する応答を調べる.ニューロン応答が観察された場合は,アセチルコリン受容体の関与を遮断薬投与により明らかにする.
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Research Products
(10 results)