2016 Fiscal Year Research-status Report
プロスタグランジン受容体シグナルによる糖代謝恒常性制御機構の解明
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15K08230
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
横出 正之 京都大学, 医学研究科, 教授 (20252447)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
南 学 京都大学, 医学研究科, 講師 (90511907)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マクロファージ / 慢性炎症 / 糖代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
糖代謝恒常性の維持は生命に必須の反応であり、複雑かつ高度に調節がなされている。膵島は血糖調節の中心的役割を果たしており、膵島機能の維持は、糖尿病の治療及び発症予防の中心的命題である。一方、エネルギー過剰摂取など生活習慣に端を発した2型糖尿病 (T2DM) の発症には、マクロファージによる慢性的な炎症機転が極めて重要である。すなわち、肥満に伴い脂肪組織に浸潤した炎症性マクロファージは、サイトカインやアディポカインの分泌異常をもたらし、全身のインスリン抵抗性を惹起する。さらに近年、肥満やT2DMの病態では、膵島組織に炎症性マクロファージが浸潤し、膵島機能不全の直接的な原因となることが明らかとなっている。 我々は、プロスタグランジンE2-8211;EP4受容体シグナルの抗炎症性作用に注目し、EP4受容体シグナル活性化を通じたマクロファージの活性化制御による抗糖尿病作用を検証している。平成27年度は、2型糖尿病モデル動物に対しEP4受容体アンタゴニストを継続投与し、EP4受容体刺激による脂肪組織マクロファージの炎症性活性化を抑制し、抗糖尿病作用を示すことを明らかにした (Yasui M, et al. PLoS One, 2015)。 平成28年度は、当初の計画通り、同様の実験系を用いて、EP4受容体シグナル活性化が膵島組織の慢性炎症に与える影響を検討した。すなわち、EP4受容体アゴニストを継続投与した2型糖尿病モデル動物では、膵臓に浸潤したマクロファージの表現型が炎症型 (M1) から抗炎症型 (M2) にシフトし、グルコース応答性のインスリン分泌が、対照群と比較し著明に改善していた。現在、培養細胞を用いたin vitroの実験系を立ち上げ、EP4受容体シグナル活性化が、グルコース応答性インスリン分泌など膵島機能に与える影響について、その分子メカニズムとともに解明を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の通り、本研究の当初の仮説である、EP4受容体シグナルによる抗糖尿病効果については、EP4受容体アゴニスト投与によるin vivoでの抗糖尿病作用を実証し、標的臓器の一つである脂肪組織に対しては、脂肪組織マクロファージのM1からM2への極性変化を伴う慢性炎症の抑制効果を証明し、国際誌に投稿・出版している。 また、EP4受容体シグナルの膵島機能調節作用についても、上記と同様の薬理学的介入による、in vivoでのグルコース応答性インスリン分泌能の検討や、膵島浸潤マクロファージの極性変化などについて検討を行った。EP4受容体シグナル活性化が、グルコース応答性インスリン分泌など膵島機能に与える影響に関して、その分子メカニズムを明らかにするため、マウスマクロファージ様細胞であるRAW264.7細胞と膵β細胞株MIN6細胞の共培養系を確立し、EP4受容体アゴニスト前処理の有無による、高血糖刺激によるインスリン分泌や、膵β細胞の機能やシグナル伝達系の変化について、予備的な検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、マクロファージを介したEP4受容体シグナルによる膵β細胞機能調節のメカニズムについて、in vivo、in vitro両面から解析を進め、研究成果を本年度中にまとめ、学会発表ならびに国際誌への投稿を行う。既知のインスリン分泌シグナルとの相互作用など、標的となる分子機序を明らかにし、新規の膵島機能維持メカニズムとしてのEP4受容体シグナルの役割を検討する。 一方、EP4受容体シグナル関連分子として、我々はEPRAPに着目し研究を進めている。我々は独自にEPRAP遺伝子欠損マウスを作製し、EPRAPがEP4受容体シグナルによるマクロファージの炎症性活性化抑制作用を担う分子であることを明らかにしている (Nakatsuji M, et al. PLoS Genet, 2015)。EPRAP遺伝子改変動物を用いて2型糖尿病モデルの作製を行い、表現型の解析を通じて、EPRAPの糖代謝恒常性維持機構への関与を、in vivo、in vitro両面から詳細に検討する。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、平成27年度に引き続き、EP4受容体シグナルによる抗糖尿病作用について、2型糖尿病モデル動物に対しEP4受容体アンタゴニストを継続投与するモデルを用い、その表現型解析に注力することによって、上述の通り一定の研究の進展をみた。研究経費の内訳では、その殆どを実際の研究の遂行に必要な物品費(研究消耗品購入費)にあて、新規購入を極力控え同等品への切り替えなどの努力を行い、最小限の支出にとどめた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も、引き続き疾患モデル動物を用いたin vivoの研究や培養細胞系によるin vitroの研究が中心であり、これらに加えて、研究成果の報告や論文投稿に要する研究経費の必要性が予想される。本年度の繰越分を有効に活用し、十分な研究成果を得るべく、研究全体を俯瞰し計画的にかつ適切に執行する。
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