2017 Fiscal Year Research-status Report
リアノジン受容体不整脈原性変異体の活性制御モデル構築と治療薬探索への応用
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15K08243
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
呉林 なごみ 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (50133335)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | リアノジン受容体 / 心臓 / 不整脈 / カルシウム / CPVT / RyR2 |
Outline of Annual Research Achievements |
心筋の興奮収縮連関に重要な役割を果たす筋小胞体のCa2+遊離チャネル/リアノジン受容体(RyR2)は5000アミノ酸サブユニットのホモ4量体から成る巨大なチャネル蛋白で、その変異は様々な致死性不整脈を惹起することが知られている。すでに300か所を越える疾患変異(優性変異)が報告され、これらが惹起する不整脈にはカテコラミン誘発性多型性心室頻拍(CPVT)、特発性心室細動、単連結性トルサードポアン、QT延長症候群などがある。しかしこれらの変異がなぜ様々な不整脈疾患を引き起こすのかよく分かっていない。 本研究では、上記の様々な疾患変異について、HEK細胞発現系を用いた疾患変異の機能評価と、培養心筋細胞セルラインを用いた不整脈発生メカニズムの検討を行った。変異RyR2を安定発現させたHEK細胞系では、細胞質および小胞体のCa2+モニタリング、[3H]リアノジン結合によりRyR2活性を定量的に評価した。その結果、催不整脈性変異にはCa2+遊離活性が亢進するgain-of-function (GOF) 型と活性が著しく低下するloss-of-function (LOF) 型がある事を見出した。GOF型では活性の亢進の程度と疾患の重症度に良い相関がみられた。 一方、WT RyR2を恒常発現する培養心筋細胞に変異RyR2を発現させ、LOF型の不整脈発生機序について詳しい検討を行った。その結果、LOF変異は、さらに二つの型(心筋細胞に自発的Ca2+遊離 (Ca2+ wave)を引き起こすものと、全くCa2+ waveを起こさずに活動電位誘発性Ca2+トランジエントのピークを減少させ小胞体Ca2+蓄積を起こすタイプ)に分けられたことから、WTとLOF変異型のヘテロ4量体チャネルの性質の違いがCa2+動態の違いに反映される事が示唆された。これらが再分極過程に及ぼす影響について数理モデルを用いて検討中である。さらに申請者は小胞体Ca2+モニタリングを利用し、RyR2作用薬のハイスループットスクリーニング系を立ち上げ、いくつかの新規RyR2阻害薬を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)HEK発現系: HEK細胞に野生型および疾患変異RyR2を発現し、細胞質と小胞体のCa2+変化および[3H]Ca2+遊離活性を定量的に測定した。その結果これまでに調べた20種類のCPVT変異については、CICR活性が亢進し自発的Ca2+遊離活性が亢進するgain-of-function型であることが分かった。一方、RyR2変異と関連付けられているCPVT以外の疾患の一部(単連結性トルサードポアン(1/7)、特発性心室細動(2/4)、QT延長症候群(2/4))は、gain-of-function型とloss-of-function型が含まれる事が分かった。すなわち同じ診断名がついていても、全く逆方向の原因があることが分かった。これらの知見は、我々の手法が不整脈治療薬の選択にもよく貢献出来る事を示唆している。結果の一部は、論文発表、学会発表をしており、順調に進んでいる。 (2)上述の変異体を心筋細胞由来セルラインにバキュロウィルスを用いて発現し、そのCa2+動態を調べた。gain-of-function型はすべて、細胞内を伝播するCa2+ waveを示した。一方、loss-of-function型は、Ca2+ waveを全く起こさず活動電位誘発性Ca2+トランジエントを減弱させるタイプと、小さなCa2+ waveを示すタイプの2種類に分けられた。前者は再分極過程のCa2+電流の不活性化を抑えて活動電位持続時間を延長させてQT延長を起こし、後者は再分極相におけるCa2+遊離が新たな活動電位を惹起する可能性を示唆する。結果は学会発表を行い、現在論文執筆中である。これらはおおむね順調と考えている。 (3)この研究過程で用いたHEK細胞の小胞体Ca2+モニタリング法を利用し、RyR2の阻害薬および促進薬を探索するシステムを構築した。その結果、4種類のRyR2阻害薬を見出し、心筋細胞の自発的Ca2+遊離を抑制することを確認した。この3番目の研究は予想を超えて進んでいる。結果は学会発表し、論文準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本計画は順調に推移してきたと考えているが、今後さらに研究を進めるため、以下の事を行っていきたい。 (1)Loss-of-function型RyR2疾患変異の不整脈発生メカニズムはまだ確立されていないので、それらの変異RyR2を動物心筋細胞、あるいはヒトiPS由来心筋分化細胞に発現させ、活動電位と細胞質Ca2+、あるいは小胞体Ca2+の同時測定を行い、自動能発生の過程を可視化し、不整脈発生メカニズムを確立する事を計画している。 (2)RyR2阻害薬が抗不整脈薬となり得るか、モデル動物を用いた実験で検討する。 (3)これまでに見つかったRyR2阻害薬の構造至適化を行い、より親和性・特異性の高い化合物を開発する。 (4)RyR1とRyR2のキメラを用いてRyR2阻害薬の結合部位を同定する。
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Causes of Carryover |
申請者のテーマの中で大きな関心の一つであったRyR2阻害薬について大規模スクリーニングを行った結果、3種類の有望な化合物が見つかった。これらが抗不整脈作用を持つか否かを不整脈誘発モデルマウスを用いた実験を平成30年度に行って、研究をまとめたいと考えたため。
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Research Products
(11 results)