2015 Fiscal Year Research-status Report
エンドセリンとエストロゲンによる虚血性臓器障害の制御と性差
Project/Area Number |
15K08252
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Research Institution | Osaka University of Pharmaceutical Sciences |
Principal Investigator |
大喜多 守 大阪薬科大学, 薬学部, 准教授 (60449824)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | エンドセリン / 性差 / エストロゲン |
Outline of Annual Research Achievements |
エンドセリン(ET)受容体拮抗薬の一つである選択的ETA受容体拮抗薬(ABT-627, 1 mg/kg, i.v.)は雄性ラットの腎虚血再灌流処置(IR)後の腎機能低下(血中尿素窒素及び血漿クレアチニンの増大、並びにクレアチニンクリアランスの低下)に対して有意な改善効果を示した。また、IR後の腎組織において顕著な組織障害像(腎髄質外層外帯における尿細管壊死、内帯における鬱血出血、並びに髄質内層におけるタンパク円柱)を認めたが、これら組織障害はABT-627の投与により明らかに抑制された。一方、雌性ラットの腎機能低下及び腎組織障害は雄性ラットと同様の処置(腎動静脈虚血45分間)では明らかに軽度であり、60分間虚血時は雄性ラットと同程度の悪化がみられたが、いずれの処置時間においてもABT-627は何ら改善効果を示さなかった。一方、卵巣摘除(OVX)を施した雌性ラット(腎動静脈虚血45分間)においては雄ラットと同様の腎機能及び組織障害がみられ、これらはABT-627投与により顕著に抑制された。なお、実験プロトコルのエンドポイント(IR後29時間)での腎組織中ETA及びETB受容体遺伝子発現量並びにET-1含量、さらに血中ET-1濃度に各群間での有意な雌雄差は認められなかった。これらのことをまとめると、雌性ラットの虚血性急性腎障害においては女性ホルモンの有無によって選択的ETA受容体拮抗薬の効果に明らかな差が認められ、本病態の雌雄差にET-1/ETA受容体システムが密接に関わることが示唆された。また、intactな雌性ラットに対するETA受容体拮抗薬投与が有効性を示さなかった理由の一つとして、内因性の女性ホルモンとETシステムをターゲットとした病態改善作用が同一のメカニズムを介している可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は虚血性急性腎障害の発症・進展時における性差発現をエンドセリン、特にETA受容体との観点から検討した。また、この雌雄差が生じるメカニズムの一つとして、内因性の女性ホルモンによるエンドセリンとその受容体に対する抑制作用が関与している可能性も明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
先述したとおり、選択的ETA受容体拮抗薬ABT-627を用いた検討から、雄性ラットあるいは卵巣摘除した雌性ラットでは虚血性急性腎障害の発症・進展にETシステムが密接に関わっていると考えられる。しかしながら、intactな雌性ラットでみられる虚血再灌流後の腎機能低下と腎組織障害に対してABT-627が病態改善効果を示さなかったことから、雌性ラットの病態発症にはETシステムとは異なるメカニズムが関与している可能性が示唆される。当初の我々の予備的検討では、このメカニズムの一部にアンジオテンシンⅡが関わる可能性を見出していたが、各種選択的AT1受容体拮抗薬(ロサルタン、カンデサルタン、L-158809)による有意な病態改善効果が認められなかったことから、アンジオテンシンⅡとは異なる因子の可能性についての検討が必要と考えられる。一方、我々のこれまでの検討から、虚血性急性腎障害にETB受容体が重要な役割を果たしていることを認めているため、今後はETB受容体と性差発現との関連性についても検討を加える予定である。
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