2015 Fiscal Year Research-status Report
ストレスおよび炎症応答転写因子の相互作用による転写活性化/抑制決定メカニズム
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15K08257
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小林 枝里 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70634971)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Nrf2 / ChIP-seq / マクロファージ / 炎症 / 転写抑制 |
Outline of Annual Research Achievements |
Nrf2は活性酸素種などによって生じる酸化ストレスから細胞を保護することで知られる転写因子で、炎症の抑制にも重要である。Nrf2による炎症抑制のメカニズムについて、従来は、Nrf2による抗酸化遺伝子群の転写活性化が間接的に炎症を抑制すると考えられてきた。これに対して申請者は、マクロファージを用いたNrf2のクロマチン免疫沈降-シークエンス(ChIP-seq)解析から、インターロイキン(IL)6、IL1b、IL1a遺伝子などの近傍にNrf2が結合することを見いだした。これらの遺伝子は病原体の成分であるリポポリサッカライド(LPS)投与によって転写レベルで発現が誘導されるが、遺伝的・薬剤的方法によるNrf2活性化はこれらの遺伝子の転写を強力に阻害した。Nrf2による炎症性サイトカイン遺伝子転写抑制を継時的に解析したところ、炎症性サイトカイン遺伝子の転写抑制は、Nrf2の既知の標的遺伝子の活性化と同時に始まっており、Nrf2活性化後早期におこる現象であることが明らかになった。このことは炎症性サイトカイン遺伝子の転写抑制がNrf2による直接の効果であることを示唆する。次にNrf2の既知の機能である活性酸素種の除去がNrf2による炎症性サイトカイン遺伝子転写抑制に必要かどうかを検討した。その結果、Nrf2による炎症性サイトカイン遺伝子の転写抑制はNrf2の既知の機能である活性酸素種の除去に依存しないことを見いだした。これらの結果から、Nrf2は活性酸素種の除去とは独立に、炎症性サイトカイン遺伝子の転写制御を介して炎症を抑制することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Nrf2による炎症性サイトカイン遺伝子転写抑制の分子機構を明らかにするため、これらの遺伝子の近傍でNrf2活性化によって変化する転写関連イベントを探索した。転写活性化に関わるヒストン修飾としてアセチル化ヒストンH3リジン27(H3K27Ac)、転写抑制に関わるヒストン修飾としてトリメチル化ヒストンH3リジン27(H3K27me3)およびトリメチル化ヒストンH3リジン9(H3K9me3)の修飾レベルをChIPによって解析したところ、これらのヒストン修飾はNrf2の活性化によって変化していなかった。さらに、炎症性サイトカイン遺伝子の転写を促進する因子として、NF-kappaB p65およびC/EBPbetaの結合をChIPによって検討した。その結果、これらの炎症応答転写因子群の遺伝子近傍への結合はNrf2の活性化によって変化しないことが明らかになった。一方、RNAポリメラーゼIIのChIPから、Nrf2の活性化はIL6およびIL1bの転写開始点におけるRNAポリメラーゼIIのリクルートメントを阻害することが明らかになった。これらの結果から、Nrf2は炎症応答転写因子群のリクルートやヒストン修飾変化以外の方法で、炎症性サイトカイン遺伝子近傍へのRNAポリメラーゼIIのリクルートメントを阻害することを明らかにした。 また、Nrf2による炎症性サイトカイン遺伝子転写抑制の重要性を検討するため、マウス個体を用いた炎症性疾患モデルにおいてNrf2の欠失および活性化を行った。Nrf2の分解に必須の因子であるKeap1の顆粒球系細胞特異的欠失により、マクロファージなどの顆粒球系細胞でNrf2が恒常的に活性したマウスでは、多発性硬化症のマウスモデルである実験的脳脊髄炎の症状が改善し、中枢神経系でのIL6発現が抑制された。これらの成果は論文として投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、Nrf2による炎症性サイトカイン遺伝子の転写抑制がNF-kappaBとの相互作用を介しているかどうか検討するため、恒常活性化型Nrf2とNF-kBの構成因子であるp65を過剰発現させた細胞を用いてレポーターアッセイ解析を行った。その結果、Nrf2はNF-kappaBによるIL6の転写誘導を阻害することが明らかになった。そこで、Nrf2による炎症性サイトカイン遺伝子の転写抑制メカニズムを明らかにするため、Nrf2活性化およびNF-kappaB活性化による、それぞれの転写因子を含む転写因子複合体の構成因子の変化を解析する。具体的には、Nrf2およびp65に対する抗体を用いた免疫沈降を行い、Nrf2を活性化させた時、およびNF-kappaBを活性化させた時に、Nr2およびp65との結合が報告されている因子が複合体に含まれるかどうかを検討する。 また、Nrf2結合配列変異マウスの作製を進め、マウス個体を用いた炎症性疾患モデルにおいてNrf2による炎症抑制効果がキャンセルされるかどうかを検討する。Nrf2結合配列変異マウスよりも作製が容易な、Nrf2結合配列周辺の領域を欠失したマウスはすでに作製できており、今後このNrf2結合配列欠失マウスのホモマウスを得るための交配を行う。Nrf2結合配列変異マウスが作製できた場合、Nrf2結合配列欠失マウスと同様に、ホモマウスを得るための交配を行う。これらのNrf2結合配列変異/欠失ホモマウスが得られた後、実験的脳脊髄炎などの炎症性疾患モデルを作製し、Nrf2結合の欠失によって炎症性疾患が増悪するかどうか検討する。
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Causes of Carryover |
Nrf2結合部位変異マウスの作製に時間がかかったため平成27年度中に解析が行われず、試薬購入費が当初の予定より小額で済んだため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Nrf2結合部位変異マウスの作製およびNrf2結合部位欠失マウスのホモマウス化、作製した変異・欠失マウスの解析、今年度から引き続き行う転写抑制機構の検討に当該助成金を使用する。
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