2016 Fiscal Year Research-status Report
低酸素関連因子の核内移行とその抑制効果の検討:治療的視野からみた個別化
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15K08355
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
安田 政実 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (50242508)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 低酸素環境 / 卵巣癌 / HIF-1α / HDAC / 治療標的 / シリマリン |
Outline of Annual Research Achievements |
低酸素誘導因子Hypoxia-Inducible Factor-1 (HIF-1)は,細胞の低酸素環境に応じて様々な腫瘍増殖因子を誘導し,微小環境への適応を図っている. これまで我々が取り組んできたシリビニンはオオアザミ種子抽出物の主要な活性成分であり,近年,ヒト子宮頸癌細胞株と肝細胞癌細胞株において,HIF-1とmTOR/p70S6K/4E-BP1シグナル伝達系を阻害することが報告されている.本邦においても肝機能保護成分としてサプリメントでの販売がなされており,HIF-1阻害薬として開発された場合,副作用発現リスクは他の分子標的治療薬よりも低いことが期待される.今回HIF-1の阻害薬候補として,シリビニンに着目した理由には有事事象の軽減も挙げられる.シリビニンは、ドイツで肝炎や肝硬変の治療に30年も前から「レガロン」の名称で使用し続けられている.これまでに婦人科領域を含めた腫瘍学分野での,シリビニンの抗腫瘍効果については殆ど報告がない.我々は現在,「シリビニンがもつHIF-1α核内移行抑制機能の応用による,HIF-1阻害がもたらす臨床実践の可能性」に取り組んでいる. 【材料・方法】 各婦人科癌細胞株(子宮頸部腺扁平上皮癌HeLa,卵巣明細胞癌HAC-2,OVISE,RMG-1,卵巣漿液性癌C13,2008)の計6種にシリビニン0,500μLを培地投与し,低酸素ならびに常酸素下にて0,4時間培養した.その後,回収したタンパクを用いて,HIF-1 Alpha Cell Based ELISA Kit (CBA-281,BIOLABS)によりHIF-1αの発現量の変化について解析した. 【成果】卵巣・明細胞癌株RMG-1および漿液性癌株2008においては,低酸素ならびに常酸素下で,非投与群に比してシリビニン投与群は有意にHIF-1αの発現抑制が認められた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一昨年,HIF-1α遺伝子多形性/変異が,他の癌腫に比べて高いことを既に証明しているが,この現象の臨床的意義を明確するにはいたっていない.シリビニン投与によるHIF-1抑制効果のin vivoでの検索も実現していない.Histone deacetylase 7 (HDAC7:下記参照)に関しても,抑制効果実験の結果を論文投稿しているが刊行は果たしていない.
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Strategy for Future Research Activity |
HDACは,ヒストンの脱アセチル化によって転写を抑制する.また非ヒストン蛋白であるp53やp21の抑制,hypoxia-induced factor 1α (HIF-1α)の細胞質内での安定と核内移行を促すなど,癌細胞の増殖や微小環境形成,化学療法抵抗性に関与する. 現在,我々は「シリビニンがもつHIF-1α核内移行抑制機能の応用による,HIF-1阻害がもたらす臨床実践の可能性」に関連させて,卵巣癌におけるHDACの発現と組織型,化学療法前後,予後との相関について検討している. 免疫組織化学的に,HDAC1は粘液性癌や明細胞癌,HDAC2は類内膜癌や漿液性癌で高発現する.明細胞癌では他の組織型に比してHDAC7の核内に強く発現する.さらに同一症例で,化学療法前後ではHDAC1とHDAC7発現が増強することがある.卵巣癌においてHDACsの発現には組織型特異性や化学療法による変化,予後との相関が予測される.HDACsが既存の化学療法への感受性が低い明細胞癌や粘液性癌の治療や,化学療法抵抗性獲得に対する治療の標的となる可能性を追究したい.
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Causes of Carryover |
上記11で言及したように,いくつかの課題においては段階的にはある程度の成果を得たているが,さらなる追求とそれらの結果を統合することによる考察を怠っているために,より深いレベルでの解析にはいたれなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
シリビニンの作用機序(プロリン水酸化酵素-2の発現を増加させてHIF-1αの蓄積を阻害することが報告されている)の解明とメンテナンス療法への応用をin vivoで検証し,かつHDACsの抑制効果を関連因子の変動も含めて培養細胞系や動物モデルでも解析したい.かつ,それらの結果を論文発表することを目指す.
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Research Products
(7 results)