2017 Fiscal Year Research-status Report
低酸素関連因子の核内移行とその抑制効果の検討:治療的視野からみた個別化
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15K08355
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
安田 政実 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (50242508)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | HDAC / HIF-1a / 卵巣癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
当センターで手術を施行された卵巣癌201例について,年齢,組織型,病期,手術完遂度,無増悪期間(PFS),全生存期間(OS)などの臨床病理学的所見のデータベースを作成した.初発時201検体と化学療法後38検体からtissue microarray(TMA)を作成し,HDAC1, 6, 7の発現を免疫組織化学的に検討した。HDAC1の核内高発現群は漿液性癌(PFS, p<0.01; OS, p=0.02)や類内膜癌(PFS, p=0.03; OS, p=0.03)で有意に予後不良であったが,明細胞癌(PFS, p=0.17; OS, p=0.68)では予後への関与は明らかではなかった。それに対し,HDAC7の細胞質内高発現群は,明細胞癌(PFS, p=0.03; OS, p=0.06)で予後不良であったが,漿液性癌(PFS, p=0.35; OS, p=0.76) や類内膜癌(PFS, p= 0.42; OS, p=0.18)では予後への関与は明らかではなかった。多変量解析では,病期,手術完遂度,組織型に加えて,HDAC6の核内高発現(HR=3.51; 95% CI, 1.49 to 8.27, p<0.01)が独立した予後不良因子であった。HDAC6の核内高発現群について,サブグループ解析を行った結果,明細胞癌(OS, p=0.07),stage III/IV期(OS, p=0.07),手術完遂度・残存腫瘍1cm以上(OS, p<0.01)で予後不良の傾向がみられた。また,38例について,同一症例内で化学療法前に比して化学療法後では,HDAC1, 6, 7の発現増強がみられた。卵巣癌では,組織型毎にHDACの発現パターンや予後への関与が異なることが考えられ,これらの成果をOncology Letters (2018 Mar;15(3):3524-3531)で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
29年度は卵巣癌において低酸素誘導因子hypoxia inducible factors-1α (HIF-1α)の関連因子であるHDACの発現の意義を臨床病理学的に検討し,その成果は論文発表に至った。現在は,その結果を化学療法の奏効性と予後に着目して解析している。漿液性癌と明細胞癌はHDACの発現パターンが異なっており,また臨床病期もⅠ期が主体の明細胞癌とほとんどがⅢ/Ⅳ期を占める漿液性癌は,化学療法感受性・不応性の観点からも個別の対象として扱った解析が必要であったため,研究実施に軌道修正を加えた。また,HDAC6やHDAC7の関連因子としてHIF-1αやARID1A,PD-L1,CD44などの免疫組織化学も追加で検討を行った。このため当初の計画であった「細胞株を用いたHDAC阻害剤の腫瘍抑制効果の検討」に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
HIF-1αに対して,HDAC1やHDAC6は細胞質内での安定化(代謝系の抑制)に,HDAC7は核内移行促進によって発現を誘導するとされており,class I HDACに属するHDAC1だけでなく,HDAC6やHDAC7といったclass II HDACが予後と相関することを見出した。さらに化学療法後に残存した卵巣癌細胞は,化学療法前に比してHDAC1,6,7が増強しており,化学療法抵抗性への関与が示唆された。今後は,HDACとHIF-1α,およびその関連因子を,蛋白やmRNAレベルで定量による解析が必要と考えられる。症例のデータベース化,TMAによる検体の集約が完了し,すでにHIF-1aやARID1A,CD44などの関連因子の免疫組織化学的検討を終えている。今後も迅速に多数例を免疫組織化学的に検討することが可能である。HIF-1αについては,以前に行った遺伝子多型(C1772TやG1790A)解析の結果と種々のHIF-1α関連因子の相関性を検討することが可能な状態にある。また卵巣癌細胞株を使用したHDACやHIF-1αの抑制実験でも一定の成果を得ており,今後はHDAC6・ARID1Aの関連に着目して,卵巣癌マウスxenograftモデルを応用し,「HDAC6抑制が治療効果を発揮するか/臨床応用が可能か(特に明細胞癌を対象に)」を追求したい。
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Causes of Carryover |
29年度は卵巣癌においてHIF-1αの関連因子であるHDACの発現の意義を臨床病理学的に検討し,その成果は論文発表に至った。現在,その結果を基に臨床データ・治療効果の程度/化学療法の奏効性,および予後に着目して解析を進めている。漿液性癌と明細胞癌の特性は,HDAC7とHDAC6のパターンにも反映され,治療の個別化の視点からこれらを取り扱うことになる。さらにHDAC6やHDAC7の関連因子としてHIF-1αやARID1A,PD-L1,CD44などの免疫組織化学も追加で検討を行った。このため当初の計画であった「細胞株を用いたHDAC阻害剤の腫瘍抑制効果の検討」に遅れを余儀なくされた。30年度に入ってからは,卵巣癌細胞株を使用した抑制実験の新たな立案に着手しており,卵巣癌のマウスxenograftモデルを作製して臨床応用を目指したい。それらに必要な免疫組織化学試薬,培養細胞・動物実験系の環境整備と消耗品,タンパク,DNA,RNA解析のための試薬と外注経費,また論文発表に必要な英文校正費,投稿料,学会発表時の出張旅費などに資金を活用する。
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Research Products
(6 results)
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[Presentation] 卵巣癌におけるHDACの免疫組織化学的発現の検討2017
Author(s)
矢野 光剛, 加藤 智美, 長谷川 幸清, 榊 美佳, 永田 耕治, 新井 栄一, 長谷部 孝裕, 宮澤 麻里子, 宮澤 昌樹, 楢原 久司, 安田 政実
Organizer
第59回日本婦人科腫瘍学会学術講演会
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[Presentation] SilibininによるHIF-1阻害の検討;卵巣癌化学療法における補助的意義2017
Author(s)
宮澤 麻里子, 安田 政実, 平澤 猛, 宮澤 昌樹, 林 優, 加藤 智美, 松井 成明, 梶原 博, 信田 政子, 池田 仁恵, 村松 俊成, 三上 幹男
Organizer
第59回日本婦人科腫瘍学会学術講演会