2015 Fiscal Year Research-status Report
新規転写抑制因子標的遺伝子群から見た非浸潤性乳癌進行の分子病理学的機構
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15K08358
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
笠井 謙次 愛知医科大学, 医学部, 准教授 (70242857)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 乳癌 / DCIS / 転写抑制因子 / 標的遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
NCBI登録済み遺伝子発現データセットの比較から正常乳腺に比べ乳癌で発現低下している遺伝子として抽出した一つ、zinc-finger homeobox蛋白TSHZ2に着目しその機能解析を行った。その結果TSHZ2は核移行シグナルを持つ核内蛋白であり、転写抑制共役因子CtBP結合配列依存性にCtBP2と結合すること、またCtBP2と共にHedgehog(Hh)シグナル下流の転写活性化因子GLI1・GLI2と核内複合体を形成することを明らかにした。さらにTSHZ2は乳癌でのGLI1標的遺伝子として新たに同定したCXCR4やAEBP1の発現をCtBP依存性に抑制することを確認した。またヒト組織を用いた免疫組織学的解析により、TSHZ2・CtBP2・GLI1は正常乳管上皮の核内に発現しているが、浸潤性乳管癌(IDC)ではCXCR4・AEBP1発現上昇と相まってCtBP2の核内発現を見るもののTSHZ2の発現は低下し、GLI1は細胞質及び核に発現上昇を見ることを報告した。 さらにTSHZ2は非浸潤性乳管癌(DCIS)には発現していることから、TSHZ2発現の差がDCISとIDCの細胞生物学的差異を規定していると想定し、本来TSHZ2を発現していない乳癌細胞株MCF7からTSHZ2強制発現株を作成し、対照のLacZ強制発現株と共にcDNA microarrayにて発現遺伝子を網羅的に解析した。その結果TSHZ2強制発現により発現低下した1,114個の遺伝子を同定した。その中にはCXCR4に加え、これまで乳癌にて発現亢進していると報告されいるADAM22・28、PLK1・4、AuroraAや乳癌幹細胞形成に重要なFOXM1、上皮間葉変換をもたらすMSX1やHhシグナル制御因子STILが含まれていた。そこで、不死化ヒト正常乳管上皮細胞HMEC4htertshp16に対し、TSHZ2とその近縁遺伝子TSHZ1、TSHZ3の特異的siRNAを用いて、single knockdown、double knockdown或はtriple knockdownを行いqRT-PCRにて発現解析した所、TSHZ2はTSHZ3と協調してADAM28の発現抑制に関わっている可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
免疫沈降実験においてGLI1はTSHZ1やTSHZ3とは結合しないこと、またMCF7細胞株を用いたTSHZ2過剰発現実験においてTSHZ2は多くの遺伝子発現を抑制することから、TSHZ2単独にてこれらの遺伝子群を発現制御しているものと考えた。しかし不死化ヒト正常乳管上皮細胞HMEC4htertshp16を用いたTSHZ1・TSHZ2・TSHZ3各々の特異的siRNAによるknockdown実験より、これら3つの遺伝子はある程度の機能相補性がある可能性が示唆された。 以上よりMCF7細胞にてTSHZ2の強制発現により抑制された1,114個の遺伝子群の中にはTSHZ1-3の直接標的遺伝子を介した間接抑制の他に、TSHZ1やTSHZ3との協調作用の下制御されている遺伝子が含まれている可能性があり、真のTSHZ2標的遺伝子の抽出に時間が必要であった。さらに病理形態像あるいは遺伝子発現プロファイルの多様な乳癌細胞においては、TSHZ2優位の遺伝子制御を示す症例あるいは細胞株の慎重な検討を必要とした。
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Strategy for Future Research Activity |
MCF7細胞株を用いたTSHZ2過剰発現系において発現変化する遺伝子群はすでに見出しているので、その比較実験としてTSHZ1-3を発現する不死化ヒト正常乳管上皮細胞HMEC4htertshp16に対しTSHZ1-3特異的siRNAによるsignle・double・triple knockdown実験より、1,114個の標的候補遺伝子群の情報整理を検討したい。その上でADAM28を含めたTSHZ2標的遺伝子の転写調節領域の解析と発現解析を行う方針である。
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