2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K08375
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
三浦 克敏 浜松医科大学, 医学部, 教授 (20173974)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超音波顕微鏡 / 画像診断 / 加齢 / 組織弾性 / 音速 / 蛋白分解酵素 / 膠原線維 |
Outline of Annual Research Achievements |
超音波顕微鏡(SAM)をもちいて英文誌への論文発表2編と国際学会(1回)、国内の学会や研究会で発表した。 Sci Repに発表した論文では体腔液の細胞を材料としてSAMによって、細胞の同定がSOSの違いによって、ある程度可能であることを発表した。上皮や癌は非上皮や正常細胞に比べ、有意にSOSが大きかった。光学顕微鏡での診断の補助手段としての利用が期待できる。 Pathol Intの論文では、組織に加えられた修飾をSAMが検出できることを証明した。固定、蛋白分解、糖化などの化学変化を音速(SOS)の変化によって識別でき、客観的に比較できることを証明した。光学顕微鏡では不可能な、組織修飾の量的変化をSAMは描出でき、老化に伴う組織修飾の解明にも役立つ技術である。 老化に伴っておこる体の変化の1例として、心臓の大動脈弁について正常、狭窄症(AS)、閉鎖不全(AR)の弁をSOSで比較し、日本病理学会総会や超音波研究会で発表した。病的なAS,ARの弁は正常弁と比べ、いずれも硬さが増していた。膠原繊維の種類や修飾に違いを証明できた。ASでは線維芽細胞により膠原繊維の代謝が亢進しており、一方ARでは線維芽細胞はすくなく、膠原繊維がゆっくり代謝されていると推測された。 研究は概ね計画通りに進んでいる。今後はSAMの技術を利用して、皮膚、肝臓、肺、脳などの臓器における老化の仕組みをSAMを用いて硬度と組織修飾の両面から明らかにしていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
体腔液の細胞を超音波顕微鏡(SAM)で観察した。通過する音速(SOS)では上皮が非上皮よりも、癌細胞は正常細胞よりも有意に音速が早かった。この差を利用して細胞の識別が可能であることを、英文で発表した(Sci Rep. 5: 15243. 2015)。 細胞をホルマリン固定したり、蛋白分解酵素処理をしたり、糖鎖の修飾をすることでSOSが変化することを発表した(Pathol Int 65:355-366, 2015)。 大動脈弁の老化について狭窄症(AS)と閉鎖不全(AR)の症例を剖検例の正常弁(NOR)と比較した。超音波顕微鏡による音速から推測する弁の硬さはAS, ARともにNORよりも大きく、有意差があった (P<0.01)。ASとARの比較でもARの方が有意に大きかった(P<0.01)。この硬さの差が何に由来するかをさらに検討した。結果、ARの線維層は蛋白分解酵素処理に抵抗性で、ASは酵素処理によって線維層が分解を受けやすいことが判明した。膠原繊維のタイプでもARの線維層は1型と3型からできているが、ASの線維層は多くは3型でできていた。膠原繊維の再生が3型から始まり、次第に1型に変わることから、ASでは再生途上にあることが推測された。膠原繊維の老化の指標として終末糖化産物(AGE)を免疫染色で染めると、ARの線維層は全体が陽性を示し、ASは一部のみが陽性であった。ARの線維層は代謝が遅く、ASの線維層は破壊再生が繰り返されていることが示唆された。以上の内容を第104回日本病理学会総会で発表し、現在英文投稿の準備をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
心臓の大動脈弁や動脈硬化のメカニズムをさらに研究するために、代謝性疾患であるマリファン症候群、エーラスダンロス症候群、アミロイド症などの症例をSAMで観察する。また、膠原繊維の安定化に関与するlysyloxidaseの免疫染色を行い、膠原繊維の架橋がSOSに与える影響を明らかにする。 肝硬変、肺線維症の線維化の程度とSOSの値に相関があるかをあきらかにする。膠原繊維の種類や分布に差がないか。線維化の部分の膠原繊維にどんな修飾が現れるかを明らかにする。最近、ウイルス性肝炎が抗ウイルス療法で治癒する症例が増えている。組織学的にも改善がみられるが、SOSの変化による客観的評価が可能かを明らかにする。 創傷治癒過程で肉芽組織から線維化に変わっていくが、SOSにはどんな変化が現れるかを明らかにする。瘢痕が残る治癒と残らない治癒とをSOSの違いで評価可能かを明らかにする。SOSの差がどんな化学的変化に関連するのかを明らかにする。 細胞の入れ替わりのない脳でアルツハイマー病の脳は正常と比べ柔らかくなるといわれているが、部位別にSOSの変化がどう変わるのか。アミロイド小体などの老化に伴って増える物質には何が起こるのかを明らかにする。 SOの計測の対照として、正常臓器や基準検体を計測することで、計測の信憑性を高めたい。そのための基準検体を準備している。
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Causes of Carryover |
ほぼ計画道理の予算執行をおこない、端数として2万円少々が残った。購入したい試薬があったが、5万円以上の抗体であり、今年度の予算ではオーバーとなってしまうので、次年度に繰り越して、購入することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験計画を予定通り進めるために、必要な試薬の購入を早く済ませるようにしたい。特に海外発注が必要な試薬の購入は早く進めたい。 試薬メーカーには特別に割安になる場合があるので、まとめて購入するなどの工夫で試薬代の節約を図りたい。
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