2015 Fiscal Year Research-status Report
長崎原爆被爆者腫瘍バンクと網羅的分子病理学的解析研究
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15K08379
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
三浦 史郎 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 講師 (80513316)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉浦 孝一郎 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (00304931)
中島 正洋 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50284683)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 放射線影響研究 / 放射線発癌 / 原爆被爆者 / 腫瘍組織バンク / 遺伝子不安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は原爆被爆者の晩発性発症の固形がんの発症メカニズムの解明に取り組んでいる。放射線晩発影響である固形がんリスク亢進の分子機構の詳細な解明のために「長崎原爆被爆者腫瘍バンク」という新鮮凍結生体試料(腫瘍部と背景正常組織部を採取)と臨床病理情報を一括した収集体制を立ち上げ、現在も実行している。 2015年12月末時点で、593症例(561名)の被爆者新鮮凍結腫瘍組織を収集した。年間70~80例の新鮮凍結検体が新たに収集されている。被爆検診情報、病理診断情報とともにデータベース化も同時進行中で、代表的な採取臓器としては、肺125例、乳腺122例、結腸86例、胃62例、肝臓62例、甲状腺49例、直腸26例と保存されており、悪性腫瘍は531例(89.5%)を占めている。被爆距離2km未満の近距離症例が 69 例(11.7 %)含まれており、腫瘍背景のゲノム解析に活用できる。最も採取検体が多い肺と乳腺の腫瘍組織型をみると、肺(125例)には腺癌83例(66%)、扁平上皮癌17例(13%)と腺癌の割合がやや多い。乳腺(122例)は浸潤性乳管癌が83例(68%)と最も多く、硬癌42例、乳頭腺管癌25例、充実性腺管癌12例が含まれている。その他、甲状線では乳頭癌が69%を占め最も多く、濾胞腺腫が13%と続いている。胃では、高分化腺癌19%、中分化腺癌21%、低分化腺癌27%、印環細胞癌15%であった。多重癌症例は悪性腫瘍514人中132人(25.7%)と高率に見られ、2.0km未満の近距離症例は22例含まれていた。現在、593症例中、398例の核酸を抽出・分注保存済み(肺、胃、結腸、直腸、肝臓はほぼ抽出完了)である。これまでの長崎原爆被爆者組織バンクに関する概要が英国の医学誌「THE LANCET」の2015年10月31日号(Vol.386 10005)に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長崎原爆被爆者腫瘍バンクの新鮮凍結試料の収集自体は、順調に行われており、臨床病理学データとともにデータベース化し、解析に必要な情報の整理は完成している。新鮮凍結試料からの核酸抽出、分注・保存、品質管理を検体採取と並行して随時行っており、現在、398例の核酸を抽出・分注保存済みである。検体数が多く、また、症例によっては抽出本数が非常に多くなることも多々あり、抽出に少し時間がかかっているが、概ね順調に分注・保存されていると思われる。まだ、aCGH解析まで至っていないが、核酸保存を含めたバンキングの構築自体は完成しており、核酸抽出を進めることで、今年度には解析に移れると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで行ってきた試料収集、被爆情報、臨床病理学的データのデータベース化を継続し、新鮮凍結試料からの核酸抽出、分注・保存、品質管理を随時行う。まだ収集症例の1/3が凍結試料のままであるが、抽出に関しては、核酸抽出精製装置QIAcube(QIAGEN)とQIAGEN Allprep DNA/RNA mini kitを用いて、核酸抽出をオートメーション化することで,人為的作業による抽出のぶれの軽減と迅速化を図っている。各臓器において継続して核酸抽出し、甲状腺、乳腺、肺の腫瘍部と正常部のaCGH解析を行う。現在、肺の核酸抽出が進んでおり、収集核酸量も多く、被爆距離2km未満の近距離症例も19例と多く収集されていることから、まずは肺におけるaCGH解析を行いたいと考え、現在準備中である。
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Causes of Carryover |
長崎被爆者腫瘍組織バンクで収集された新鮮凍結試料から腫瘍部、背景正常部各々の検体から核酸抽出、分注・保存を行っているが、これまで使用してきた抽出キットのストックから順次使用しているため、物品費が予定よりもかなり少なく済んでいる。また、まだ核酸抽出中であり、費用が多くかかるaCGH解析に移っていないことも理由の1つである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまで採取された新鮮凍結試料593例中、まだ核酸抽出していない残りの195例から継続して核酸抽出・分注保存を行うDNA/RNA抽出キット代(QIAGEN Allprep DNA/RNA mini kit)として使用する。これまで使用してきた抽出キットのストックはもうなく、新たに購入する必要がある。1例あたり、腫瘍と正常部の各DNAとRNAを5本ずつ分注・保存するため、キット1セット(5万円)で約15例抽出可能である。また、20例のaCGH解析に、正常部、腫瘍部を併せて40テスト必要である。Affymetrix社のアレイが5検体あたり25万円である。甲状腺、乳腺、肺の各20症例ずつ、計60例の費用の一部として使用する。他に2編の論文英文校閲費として10万円、年2回の国内(日本放射線影響学会、日本病理学会)での研究成果発表のための旅費として申請期間中20万円を使用予定である。
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Research Products
(10 results)