2016 Fiscal Year Research-status Report
時計蛋白質CRY1の変異が惹起する膵β細胞の老化様変化と膵島機能異常の解明
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15K08417
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
岡野 聡 山形大学, 医学部, 助教 (60300860)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 修 山形大学, 医学部, 教授 (80312841)
安井 明 東北大学, 加齢医学研究所, 加齢研フェロー (60191110)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 膵上皮内腫瘍性病変(PanIN) / tubular complex / 膵癌前駆病変 / 膵β細胞新生 / 膵管上皮細胞 / 生物時計 / クリプトクロム(CRY) / HES1 |
Outline of Annual Research Achievements |
ここ十年程の間に、少なからぬ研究者の努力により生物時計と代謝制御についての知見は飛躍的に増大し、それらをまとめた優れた総説も公表されてきた。しかしながら、多能な時計蛋白質クリプトクロム(CRY)に焦点を絞り、その代謝制御の面に軸足を置いた最新の英文総説の必要性が痛感された。 代表者が科研費の課題として行ってきた一連の研究成果から、変異型CRY1マウス(Tgマウス)では、特異な概日リズムの表現型を示すのみならず、膵β細胞が老化様の性質を示し加齢に伴い消失すること、膵管上皮細胞の増殖性の異型病変が出現することや、それを起点にβ細胞新生(neogenesis)が起こることを報告してきたが、これらの複合的な現象を統合的に、簡潔に論じて伝える意義も少なくないと感じていた。 そこで、研究エフォートの一部を、総説論文の執筆作業に当てることとし、本研究課題の最新の成果と他研究グループの最新の知見も含めて解説した原稿を作成し、J Diabetes Res 誌に投稿した。原稿は2016年11月27日付でアクセプトされ公表された。 実験面では、引き続き膵β細胞機能障害の原因究明と膵管異型病変ついて解析を行い、上述の膵管異型細胞では一部がムチン陽性であり、膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)と類似の病変であることを見出した。Tgマウスでは、加齢に伴いtubular complex(TC)が生成されることも判明した。TCは膵島新生に寄与していると考えられる。さらに、TCやPanIN様の細胞ではHES1蛋白質が高発現していることも明らかにした。この結果から、異型病変の生成にNotchシグナル経路が関与することが示唆される。安井明加齢研フェローは引き続きプロテオミクス解析を中心に実験を継続し、結合蛋白質の同定に具体的成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理研/東北大加齢研ポスドク時代から一貫して継続して実施して、研究代表者として科研費により補助を受けて遂行してきたCRYに関する一連の研究をまとめた総説論文を公表し、科学コミュニティーに向けて広く発信することができ、研究成果の社会への還元の観点から、研究面における一定の社会的責任を果たすことが出来たと考えている。 また、研究組織に新たに佐藤賢一教授(東北医科薬科大学[前宮城県がんセンター])が連携研究者として参画し、膵管異型の解析を多いに進展させることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
PanINは癌化し膵癌へと進展しうる膵前癌病変として知られている。分担者の安井明加齢研フェローが本年度に見いだしたCRY1結合候補タンパク質は、これまでに報告されている機能から推測すると、異型生成にも関与する可能性が考えられる。 これらを踏まえた上で、膵β細胞機能障害/膵島新生の機序の解明に加え、膵癌発生の機序の解明に資することも目的として、この病変生成/悪性化の分子機序を明らかにする研究を、種々のマーカーを指標に、引き続き安井明加齢研フェローや早坂清名誉教授らとも密接に連携しつつ実施する。 時計蛋白質の核内移行に関わることが報告されているKPNA2(importin-α1)について調べたところ、KPNA2は膵島細胞で強く発現していることが判明したので、KPNA2の膵島機能調節に於ける役割の解析も掘り下げて行う。
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Causes of Carryover |
異型病変の解析に、これまで用いてきたものよりもさらに加齢が進行したマウス個体を用いる必要があり、材料の準備に時間を要したことや、病理学的な病型の判定にも時間を費やしたことが主な理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
異型病変の病型が判明したことにより、分子機序解明に向けて新たに研究を展開することが可能となった。種々のマーカーに対する抗体を購入し、病変生成機序に関与する可能性があるacinar to ductal metaplasiaの有無と、各種のシグナル伝達経路の関与の判定を行う。病変の悪性度についても解析を進める。 膵β細胞の調節因子及び病変誘導因子としての観点から、KPNA2やCRY1結合蛋白質に関して、細胞生物学と分子生物学の技法を用いて解析を行う。
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Research Products
(6 results)