2017 Fiscal Year Research-status Report
CRELD1欠失変異による上顎洞癌自然発症モデルマウスの確立
Project/Area Number |
15K08422
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
西宗 敦史 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (40311310)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | がん |
Outline of Annual Research Achievements |
Creld1ノックアウトアレルをヘテロ接合にもつ個体(Creld1KOマウス)を12ヶ月齢以上の長期に渡って飼育し、自然発症した腫瘍の分析を継続して行なった。当初予測していたよりも上顎癌の発症個体数が少なかったが、最終年度になり上顎癌及び線維肉腫に加えて、新たに、肝細胞癌、胃癌、脾原発性リンパ腫、腹膜腫瘍での死亡例・剖検例を見出した。現在までのところ、発癌が見られたのは特定の原発器官や細胞種に限られたものかどうか明らかとなっておらず、多様である。 このうち、線維肉腫について予備的にコンジェニック野生型個体への移植実験を行ったところ、全例で生着し、個体で、皮下でも腹腔でも腫瘍塊を形成し、さらに継代移植が可能であることが明らかとなった。また、移植して継続観察した個体はいずれも移植後100日前後で死亡している。 一次腫瘍ではヘテロ接合性の消失及び、CRELD1座位近傍の遺伝子構造が正常に保たれていたことから、少なくともマウスにおいてはCRELD1は未発見の新規腫瘍抑制遺伝子として機能している可能性が強く示唆された。 当初は上顎癌のモデル動物を確立することを目標としたが、肝細胞癌など、患者数の多く臨床的な重要性も大きいと考えられる多様な悪性腫瘍の発生を見たことから、Creld1遺伝子(変異)の発癌への影響は当初予測していたものよりも大きいことが明らかとなったため、研究目標を変更し変異の影響を分析するためにも有効な腫瘍細胞株の確立を新たに付け加えて実施期間を延長している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Creld1KOマウスを12ヶ月齢以上の長期に渡って飼育し、自然発症した腫瘍の分析を継続して行なった。上顎癌及び線維肉腫に加えて、新たに、肝細胞癌、胃癌、脾原発性リンパ腫、腹膜腫瘍(由来未同定)での死亡例・剖検例を見出した。現在までのところ、発癌が見られたのは特定の原発器官や細胞種に限られたものかどうか明らかとなっておらず、多様である。 今年度は、死亡個体の剖検例に新たに肝臓に原発性と思われる悪性腫瘍が発生した個体を見出した。継続して剖検例を集積中で、4葉全てに瀰漫性に発症したものや結節性の腫瘍塊を形成したものなどマクロスコピックにヒトの臨床的な肝細胞癌に類似した症例(Eggelの肉眼分類 結節型、塊状型、瀰漫型)を発見できたことが特筆される。ヒトの肝癌ではHBV,HCVの感染及びアルコール摂取の影響が疫学的な因子として臨床的に非常に大きな重要性を持っているが、Creld1KOマウスモデルはその影響下にはないので、疾患モデルとして意義のあるものであると考えられた。 また皮下に発症した線維肉腫については、独立に複数の発生を見ており、2例について予備的に野生型コンジェニック個体皮下への移植実験を行ったところ、原発腫瘍細胞が生着し、腫瘍塊を形成すること、個体は移植後約100日の経過で死亡すること、及び移植による継代が可能であることが明らかとなった。 原発腫瘍と同様に移植継代腫瘍においてもヘテロ接合性の消失及び、近傍の遺伝子の正常構造を確認しており、少なくともマウスにおいてはCreld1遺伝子は新規腫瘍抑制遺伝子として機能していることが強く示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で、Creld1KOマウスでは多彩な悪性腫瘍を自然発症することが明らかとなり、現在は未だ一部ではあるが、発生した腫瘍のC57BL6野生型個体への移植継代にも成功しているので、今後は自然発症例について、剖検だけでなく移植も並行して行い、Creld1KOの腫瘍モデル系として確立してゆく。肝細胞癌は最近見つかった症例ではあるが、マクロの病理像がヒトの肝癌の類型との間で類似性を見せるなど興味深い特徴を有するため、早期に肝内移植モデルの作製を試みる。 一次腫瘍や生体で継代できる腫瘍はそれ自体大変貴重な疾患モデルであるが、維持しておくためだけでも大変な労力と費用を要するので、in vitro培養も並行して試み、低温永久保存可能な細胞株の確立を目指す。この際に移植細胞マーカー及び誘導可能な野生型Creld1の導入により、造腫瘍性の分析を行う。外来Creld1の発現により悪性腫瘍としての性質が消失するのであれば、それはCreld1が腫瘍抑制遺伝子として機能していることの強力な傍証となるだろう。 腫瘍細胞株が確立できたものについては、核型分析とともに再度Creld1座位でのLOHの確認、近傍遺伝子群の構造の正常性の確認を随時行ってゆく。分子レベルのCreld1(消失)依存性発癌機構の解析の上で重要な問題は2つあり、1)Creld1消失の直接効果は何か?と、2)他の発癌関連遺伝子のドライバー変異との相互作用の全体像はどのようなものか?である。前者については、悪性腫瘍細胞株での±Creld1の条件下で転写産物の比較を行うことで検討する。後者については特に他の腫瘍抑制遺伝子のドライバー変異との関連を調べるため、まず核型を詳細に解析する。
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Causes of Carryover |
当初の予測に反して上顎癌の発症例が少なかったため、29年度中に頭頸部に限局したX線照射による発癌誘発実験を計画していたが、X線照射装置が使用できなかったため、計画を変更し、原発腫瘍の分析を拡大した。この結果、計画は当初より遅れたものの、死後剖検例から初めて興味深い肝細胞癌の症例を見つけるなど、課題をさらに発展させることのできる知見が得られつつある。また、予備的に原発腫瘍の移植実験を行ったところ予想以上の良好な結果を得たため、30年度へ延長して本課題の継続を申請するに至った。
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