2016 Fiscal Year Research-status Report
発展途上国の下痢症アウトブレイク関連大腸菌からの新規下痢因子解明
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15K08477
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Research Institution | Fujita Health University |
Principal Investigator |
越智 定幸 藤田保健衛生大学, 医学部, 准教授 (80268705)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 下痢原性大腸菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
先進国では衛生状態の改善で細菌性下痢症が急激に減少したが、近年の工業技術の発展と国際化による人や物の移動量の劇的な増加によって渡航者下痢症という形で増加してきた。一方、発展途上国では衛生水準が低く、依然として細菌性下痢症が頻発している。私は、ケニアで発生した原因菌が不明な感染性下痢症患者の糞便から腸管凝集性付着大腸菌耐熱性エンテロトキシン(astA)遺伝子を有するEASTECが高頻度に分離されることを明らかにした。EASTECは、健常人からも単離されることなどから、現在でも下痢厳正大腸菌のカテゴリーには含まれていない。私は、ケニアのマンデラ地方で下痢症アウトブレイク発生時に同地区の健常人から採取された糞便試料においてEASTECの検出を行ったところ、検出頻度は低いが、健常人の糞便からもEASTECが検出されることが明らかになった。そこで、同地区、同時期に由来するEASTECのアウトブレイク菌株と健常人由来菌株のDNAを制限酵素(Xba I)処理したDNAプラグに対して、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行って消化断片を展開した。その結果、マンデラアウトブレイク菌株では異なる患者糞便由来の菌株においても一致した消化断片の泳動パターンが検出されるのに対して、健常人由来菌株ではアウトブレイク菌株とは大きく異なる泳動パターンを示すうえ、菌株間でも明らかに異なる泳動パターンを示した。このことから、アウトブレイク菌株と健常人由来菌株は分子疫学的に全く異なる菌株であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究調査の対象国であるケニアでは42の部族が存在するといわれるが、キクユ、ルヒア、カレンジン族などの大きな部族間での衝突が後を絶たない。また、近隣諸国、特に、ソマリアのイスラム勢力との間でも襲撃や報復などの衝突が発生する状況で、大小を問わなければ、国内の部族間衝突と隣国間衝突の多発する状況にあり、治安安定とは考えにくい。しかしながら、長崎大学熱帯医学研究所ケニアプロジェクト拠点の共同研究者の協力で聞き取り調査を含む疫学的現地調査、そして、試料採取や試料保管も問題なく行えている。また、保管試料からのEASTECの検出、単離が成功し、アウトブレイク菌株との分子疫学的比較解析も順調に進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
ケニア国内の感染性下痢症の発生動向調査とともにマンデラ地方で分離されたEASTECアウトブレイク菌株の分子疫学的解析、及び、下痢原因因子の特徴について検討する。下痢原因因子については耐熱性であるデータを既に得ている。そこで、下痢原因因子としての分子性状や特徴を明らかにするため、この領域の専門家の助言、協力を得ながら検討を進める。次に、アウトブレイク菌株において既知の病原因子の有無、そして、それら因子の下痢症発症への関与について、アウトブレイク菌株の分子生物学的検討で得られる情報をもとに解析を進める。一方、発展途上国で発生する感染性下痢症と渡航者下痢症の発生動向は必ずしも一致しないが、発展途上国で感染性下痢症の流行が渡航者下痢症の発生動向に全く無関係とは考えられない。そこで、発展途上国における感染性下痢症の疫学的調査から発展途上国の感染性下痢症発生動向と渡航者下痢症の関連性について調査する。
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Causes of Carryover |
アウトブレイク菌株の下痢原因因子の絞込みを検討したが、原因因子が単離精製が困難であった。この過程で原因因子は、耐熱性低分子タンパク質であると考えられたため、今後の研究で使用する機器を低分子化合物を含めた耐熱性低分子タンパク質を標的とした研究戦略へのシフトが必要になった。これにともなって、この領域の専門家の共同研究を模索する必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
耐熱性低分子タンパク質を標的として研究遂行のため、この領域の研究を進めるための物品、及び、機器を購入する。また、この領域の専門家に共同研究を相談し、これに必要な物品を購入して共同研究する。
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