2016 Fiscal Year Research-status Report
健康危機リスクコミュニケーション手法の開発に関する研究
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15K08542
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
冨尾 淳 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (10569510)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 元 国立保健医療科学院, 政策技術評価研究部, 部長 (70272424)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 健康危機管理 / リスクコミュニケーション / 医療行動学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、健康危機発生時の行政や保健医療機関等と一般市民とのコミュニケーションについて、国内外の事例を行動科学および政策科学の視点から分析・検証し、わが国の現状に即したリスクコミュニケーションの手法を開発することを目的としたものである。平成28年度の主な実績は以下の通りである。 1. 国内の2つの自治体(A市 人口約6.3万人、B市 人口約4.2万人)の協力のもと、住民を対象としたアンケート調査を実施し、近年全戸配布されたそれぞれの自治体の防災マニュアルの利用状況の把握、想定質問を用いた防災行動の評価などを行った(A市調査の対象は18歳以上の全市民から無作為抽出した3000人、B市調査の対象は全世帯から無作為抽出した2000世帯)。各市が全戸配布した防災マニュアルについて「知っている」と回答した者はA市が59%、B市が77%であり、自治体間で防災マニュアルの普及状況に差がある可能性が示唆された。防災行動については、集中豪雨の際に自宅から避難するタイミングとして、避難指示が発令されるまでに避難すると回答した者の割合は、A市81%、B市86%と比較的高かった。一方で、自宅で緊急地震速報が発令された際にまず最初にとる行動として、「室内の安全な場所(テーブルの下など)に移動する」と回答した者の割合は、A市、B市とも15%にとどまっていた。 2. 米国の医療機関における災害等の緊急事態対応システムとして使用されるHospital Incident Command System (HICS)について、HICSを運用上の指針となるHICSガイドブックの日本語訳を作成し、ウェブサイトでの公開を開始した。 3. わが国の第一種感染症指定医療機関向けの一類感染症患者受け入れのための、組織体制や広報・コミュニケーション対策などを含む包括的なチェックリストを作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・国内の複数の自治体におけるアンケート調査の分析を通じて、自然災害を中心とした行政の情報提供活動の評価と、住民の防災行動の評価を同時に行うことで、健康危機リスクコミュニケーションの効果、ならびに「適切な行動に結びつく」コミュニケーションを行う上での課題を実証的に示すことができた。これにより、効果的なリスクコミュニケーション手法の開発に向けた貴重な資料を得ることができた。 ・災害時等に医療機関で活用可能なシステムであるHospital Incident Command System (HICS)について、分析、翻訳を行い、ウェブサイトで公開することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
・災害拠点病院や第一種感染症指定医療機関において、Hospital Incident Command System(HICS)や一類感染症対応のためのチェックリストの活用の可能性について調査・分析し、保健医療機関向けの健康危機コミュニケーション手法の指針のあり方について検討する。また、保健所をはじめとする行政機関の協力のもと、健康危機コミュニケーションにおける医療機関と行政機関との連携・調整のあり方について検討する。 ・HICSの関連資料の日本語訳を完成させ、解説とともにウェブサイトに公開する。 ・健康危機に関するリスク認知、リスク回避に関する国際比較アンケート調査をインターネット経由で実施し、海外と比較したわが国で特に重要となるコミュニケーション手法について明らかにする。 ・28年度までに実施した研究成果および29年度の成果をもとにリスクコミュニケーション手法のガイドラインの原案を作成し、アンケート調査を実施した自治体等でワークショップを開催するなどして研究成果の社会還元を行うとともにガイドラインのブラッシュアップを行う。
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Causes of Carryover |
28年度は国内の複数の自治体の協力が得られ、アンケート調査を実施することになった。アンケート調査は本研究の目的である効果的なリスクコミュニケーション手法の開発において重要な実証データを入手できる機会であり、この準備・実施期間が当初の海外行政機関の訪問予定時期と重なったため、海外訪問を次年度に先送りすることとした。そのため次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度に海外の行政機関と日程調整を行い訪問する。 旅費については、訪問先を厳選するとともに複数機関を同時期に訪問するなど最短の旅程となるよう日程調整し、効率的に執行する。
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Research Products
(3 results)