2016 Fiscal Year Research-status Report
原発不明がんの治療成績向上を目的とした、がん組織由来マイクロRNAの網羅的解析
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15K08640
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大越 靖 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (10400673)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小島 寛 筑波大学, 医学医療系, 教授 (10225435)
島居 徹 筑波大学, 医学医療系, 教授 (80235613)
玉木 義雄 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60188422)
沖 明典 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60334067)
鈴木 久史 筑波大学, 医学医療系, 講師 (40750740)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 原発不明がん / マイクロRNA / 原発組織 / ホルマリン固定パラフィン包埋 |
Outline of Annual Research Achievements |
「原発不明がん」は臨床的に注意深い全身検索や経過観察を行っても原発巣を同定できない転移性の腫瘍を指す。成人の全悪性固形腫瘍の3~5%を占めており、必ずしも稀ながんではない。一方で原発巣が同定できないことにより、医師を含めた医療従事者および患者双方に不安を与えやすいという問題を抱えている。原発不明がんには多種多様ながん腫が含まれているが、特に注意しなければならないのはそのうち特定の治療に反応し長期生存が見込める一群が存在することである。例えば、女性、腺がん、腋窩リンパ節の転移性病変のみの場合、実際に乳がんを発見できなくても乳がんの治療を行うことで効果が得られるといった場合である。 がん細胞が由来する原発組織をできる限り同定し、個々のがんに応じた適正な治療につなげていくことが重要と言えるが、例えば従来の免疫組織染色などに基づく原発組織推定は有用であるものの、不十分な結論に終わる場合も多かった。このためがん組織からマイクロRNAを抽出し、その網羅的な発現解析を行うことで、より的確に原発組織を明らかにする手法の確立を試みた。広く一般に利用できるように、特殊な保存法による検体ではなく、通常のホルマリン固定パラフィン包埋組織からマイクロRNAを抽出し、解析する方法を選択した。 本年度は前年度の解析をもとに、方法を改良することによって推定確度を改善させることに成功した。すなわち転移リンパ節検体を用いた場合、約7割の確率で推定と実際の原発組織との一致をみた。現在さらに癌腫や検体数を増やし、また肝転移病変でも同様に推定可能か研究を進めており、実用に耐えうる推定アルゴリズム確立に努めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホルマリン固定パラフィン包埋組織からマイクロRNAを抽出し、1検体につき48種類のマイクロRNAの発現を調べ、Rosenfeldらの方法(Nature Biotechnology, 2008)やその後の派生研究を応用して原発組織の推定を行った。 Decision tree(決定木)により、各々の節で対象となるマイクロRNAの発現パターンを比較し、最終的に原発巣を推定する方法である。原法では各々の節をどちらに進むかの判断に、事前に原発巣が既知の十分な数の検体を用いてマイクロRNAの発現傾向が明らかにしたうえでK-nearest neighbors法を用いていた。今回は実臨床で簡便に応用できる方法を確立するため、決定木そのものは原法のままとし、節を進む際の判断基準として、単純に対象となるマイクロRNAの発現の高低に基づいて判断することとした。高低の判断基準となるカットオフ値を各々の節で設定することによって、原発巣既知の転移リンパ節検体を用いた解析(11腫瘍、31検体)では、約7割の確率で推定と原発巣が一致した。 現在、肝転移巣で同様に推定が可能か解析を進めている。また、過去に原発不明がんと診断された症例について、実際に今回の推定方法が有用で実臨床での使用に耐えうるか、後方視的検討を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
推定確度はできるだけ正確な方が望ましいが、現状の7割の確度に留まったとしても診療にあたる医師には大きな情報になるのではないかと考えられる。臨床判断を誤らせることはあってはならないが、画像や腫瘍マーカー、病理組織の免疫組織染色など従来の臨床情報にのみ基づいて原発巣を推定していた状況から、分子生物学的な裏付けが加わるメリットは大きい。腫瘍組織推定のための生検はリンパ節や肝転移巣で行われることが多いので、現在はリンパ節の検体数を上乗せして解析を進めるとともに、肝転移巣で同様に推定が可能か検討をはじめている。 最終的にリンパ節や肝転移巣で比較的信頼できる推定が可能と判断された場合、次のステップとして、過去に原発不明がんと診断された症例について、今回の推定方法が有用であるか後方視的検討を予定している。
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