2016 Fiscal Year Research-status Report
高社会性げっ歯類を用いた痛みの社会的修飾メカニズムの解明
Project/Area Number |
15K08672
|
Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
由利 和也 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 教授 (10220534)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大迫 洋治 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 准教授 (40335922)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 痛み / 心理社会的修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度において、パートナーと強い絆を形成するプレーリーハタネズミにおいて、パートナーの存在により不安行動と痛み行動が修飾される痛みの社会的修飾モデルを確立した。雌雄ペアリング前に雄の体内に超小型バッテリー内蔵型データロガーを腹腔内に埋め込み、パートナーロス期間中における深部体温の24時間連続計測を行った。その結果、ロス群はパートナーロス直後から体温が上昇し、その上昇はロス2週間以上継続した。さらに、ホルマリンの足底皮下投与により炎症性疼痛を誘発した際に、ロス群では維持群に比べて深部体温がわずかしか上昇しなかった。また、パートナーロス1週間後に心臓採血を行い、維持群・ロス群における血中コルチコステロン濃度をELISA法により測定した。その結果、維持群に比べてロス群の血中コルチコステロン濃度が高かった。さらに、前年度に疼痛誘発時にFos発現の差が検出された内側前頭前野と側坐核は、オキシトシン・バゾプレッシンの主要な投射領域でもあり、プレーリーハタネズミにおける絆の形成にも重要な領域でもある。そこで、視床下部におけるオキシトシン・バゾプレッシンニューロンにおける痛み刺激への反応性についてFos発現を指標に維持群とロス群で比較解析を行った。その結果、オキシトシン・バゾプレッシンニューロンともに、ホルマリンによる炎症性疼痛で有意にFos発現が増加し、特にオキシトシンニューロンにおいて、ロス群で維持群よりFos発現の低下がみられた。これらの結果より、パートナーロス群において、心理的ストレスにより視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)が活性化し、さらにはストレス性高体温症を発症し、疼痛誘発時における自律神経反応を低下させることが示唆された。すなわち、パートナーロスにより痛み行動が増強されるメカニズムとして、心理的ストレスによる自律神経機能の変調が関与する可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、前年度に確立したパートナーロスモデルにおいて、新たに自律神経機能の変調を示唆する結果を加えることができた。慢性痛患者においても自律神経機能の変調が痛みを増悪させることが知られていることから、本研究のモデルが痛みの社会的修飾モデルとして有用であることを支持することができた。さらに今年度は、パートナーロスにより視床下部オキシトシンニューロンの痛み刺激に対する反応性が低下する可能性を示唆した。オキシトシンやバゾプレッシンはプレーリーハタネズミにおける絆形成に重要であり、さらに近年これらに鎮痛作用があることも明らかになっている。絆と痛みの脳内回路がオーバラップする部位である視床下部でパートナーロスの影響を明らかにできたことは、本研究の当初の仮説を支持する成果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度、パートナーロス群では維持群に比べて痛み刺激に対する視床下部オキシトシンニューロンの反応性が低下することを示唆した。そこで、最終年度は、これまでにパートナーロス群と維持群間で検出した痛み刺激時のペインマトリックスのFos発現の差が、視床下部オキシトシンニューロンの痛み刺激に対する反応性の変化によるものなのかを形態学的・機能的に検証する。まず、オキシトシン受容体のアゴニスト・アンタゴニストを脳室内投与して、パートナーロス群・維持群間におけるペインマトリックスにおけるFos発現差が消失するか免疫組織化学的に検証する。また、オキシトシンの作用脳領域を絞る目的で、Fos発現差が消失した領域に逆行性トレーサーを注入して、トレーサーが到達したオキシトシンニューロンのFos発現を解析する。さらに、Fos発現差が消失した領域におけるオキシトシンニューロンの神経終末を免疫組織化学的染色法によりその発現状態も解析し、ロス群vs維持群、脳領域間で比較する。オキシトシンの作用が、神経投射によるものでなくホルモンとして作用している可能性もあるので、血中オキシトシン濃度の変化もELISA法を用いてパートナーロス・維持群間で比較する。
|
Causes of Carryover |
本研究に用いるプレーリーハタネズミは自家繁殖しており、自家繁殖匹数が予定より少なく、飼育代が予算額より下回った。論文作成および投稿が次年度になったため、その英文校正費および掲載料を次年度の請求のために繰り越した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度繰り越した費用の一部は、薬物投与用のポンプの台数の追加購入費に充てる。プレーリーハタネズミをエンリッチメント環境下で飼育しているが、そのエンリッチメント環境作製用のドームが、オートクレーブ滅菌の繰り返しにより劣化破損してきたので、新規ドームの購入費に充てる。次年度にずれこんだ論文作成および投稿の際の英文校正費および掲載料に充てる。
|
Research Products
(4 results)
-
-
[Presentation] Modulation of nociception by social bonds in monogamous animal, prairie voles2016
Author(s)
Yoji Osako, Reiko Nobuhara, Kenjiro Tanaka, Kou Takahashi, Larry J. Young, Takahiro Ushida, Makoto Nishihara, Kazunari Yuri
Organizer
16th Word Congress on Pain
Place of Presentation
PACIFICO YOKOHAMA (Yokohama, Kanagawa, JAPAN)
Year and Date
2016-09-26 – 2016-09-30
Int'l Joint Research
-
-