2015 Fiscal Year Research-status Report
脊髄後角抑制系増強による慢性疼痛治療におけるシナプス機構の解明
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15K08679
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
田辺 光男 北里大学, 薬学部, 教授 (20360026)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脊髄スライス / 抑制性シナプス伝達 / グリシントランスポーター / GABAトランスポーター / パッチクランプ |
Outline of Annual Research Achievements |
雄性成熟マウスから作製した脊髄スライス標本において、膠様質のニューロンからパッチクランプ法にてホールセル電流を記録した。グリシン性の抑制性シナプス後電流IPSCsは、GABAA受容体とnon-NMDA型グルタミン酸受容体の阻害下に-70 mVの保持電位で記録した。刺激誘発性IPSCs (eIPSCs)は記録細胞近傍を0.1 Hzで電気刺激して誘発した。また、微小抑制性シナプス後電流mIPSCsはさらにtetrodotoxin存在下に記録した。GlyT1阻害薬NFPS及びGlyT2阻害薬ALX-1393はeIPSCsの振幅を変化させずに電流衰退過程を延長させた。mIPSCs 記録において、NFPSはその振幅や頻度に影響せず、ALX-1393は頻度を増加させ、両薬物は細胞外グリシン増加に伴う保持電流の変化を起こした。これらはGlyT阻害はシナプス直下及びシナプス外のグリシン受容体活性化を増加させて抑制増強を起こすことを示唆する。一方、GlyT2はグリシン性神経終末へのグリシン供給を担うことでグリシン性神経伝達維持に必須であるため、その長期的阻害を次に検討した。GlyT阻害薬を適用する長時間に渡り0.1 Hzで誘発するeIPSCsを記録しながら安定したホールセル記録を続けることは技術的に困難であるため、一時的に誘発刺激条件を3分間10 Hzに変化させることでグリシン性シナプス伝達を短時間に高頻度で起こさせ、長時間適用時に発生する可能性のあるシナプス活動を短時間で疑似誘発させた。この刺激条件単独やGlyT1阻害下の条件刺激はその後の0.1 Hz刺激のeIPSCsに影響を与えなかったが、GlyT2阻害下では高頻度刺激後のeIPSCsは強く抑制された。すなわち、長期的にGlyT2阻害薬を使用した場合に、グリシン性シナプス伝達が弱まり鎮痛効果にマイナスの影響を与える可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GABAトランスポーター(GAT)阻害薬による鎮痛作用のシナプス機構を解明することも目的の一つとしている。平成27年度はGABA性IPSCsに対するGAT阻害薬の効果も検討する予定にしていたためGlyT阻害薬についての研究と同様に開始し、mIPSCsに対して脊髄に高発現しているGATサブタイプの1つであるGAT1を選択的阻害薬NNC-711で阻害するとmIPSCsの振幅は変化せずに頻度が減少する結果が得られつつある。その一方、mIPSCsの電流衰退過程は延長された。すなわち、一方では鎮痛に相反し、もう一方では鎮痛に寄与する結果であり、鎮痛効果をシナプス機序で明確に表しているとは考え難い。そこで、微小興奮性シナプス後電流(mEPSCs)に対するNNC-711の作用を検討した結果、mEPSCsの振幅には影響せずに頻度を抑制することが分かった。また、GAT1阻害薬によるmEPSCsの頻度抑制作用はGABAB受容体阻害薬CGP55845により拮抗された。従って、興奮性シナプス伝達抑制が鎮痛作用に大きく寄与する可能性がある。当初の予定とは一部違うが、GAT阻害の鎮痛作用においてもそのシナプス機序を明らかにする第一歩が踏み出せたと考えられるため、上に示した自己点検の区分を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度以降では、「現在までの進捗状況」欄に記載したGAT阻害薬のGABA性mIPSCsやmEPSCsに対するGAT1阻害薬による抑制作用を関与する受容体の検討も含め例数を追加して完成させ、さらに記録細胞近傍の電気刺激で誘発するGABA性eIPSCsや興奮性のeEPSCsに対するGAT1阻害薬の薬理作用も明確にしたいと考えている。eEPSCsの場合、後根を付けたスライス標本を用いて後根刺激で誘発するeEPSCsに対しても検討する予定である。現在明らかにしつつある「GAT1阻害後に増加したGABAがGABAB受容体を介して興奮性シナプス伝達を抑制する」というシナプス機序について、慢性疼痛モデルを用いた行動実験レベルにフィードバックして新たに検討する必要があると考えている。 また、GAT1以外の主要なサブタイプであるGAT3の阻害がシナプス伝達に与える影響も順次検討開始し、GAT3の鎮痛作用のシナプス機序も明確にする予定である。
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Causes of Carryover |
当初リニアスライサーを約150万円で購入予定であったが、研究室内での共通使用の頻度が高いために研究室内の別予算で購入可能となったことが一番の要因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
GAT3阻害薬を使用する頻度が増加するが、GAT3阻害薬は高価なため多くを試薬代に充てたいと考えている。
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Research Products
(2 results)