2015 Fiscal Year Research-status Report
野生動物の食性の違いを利用した薬剤耐性の環境汚染経路の解析
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15K08770
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
浅井 鉄夫 岐阜大学, (連合)獣医学研究科, 教授 (10509764)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 正嗣 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90216440)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 薬剤耐性 / 野生動物 / 食性 / セファロスポリン / フルオロキノロン / ESBL産生菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
人類の生活から自然環境へ放出された薬剤耐性菌や耐性因子は、食物連鎖により野生動物の腸管内で蓄積・維持される。そこで、生物選択の視点から食性の異なる野生動物における薬剤耐性菌の汚染状況を解析して、野生動物が薬剤耐性菌および耐性因子を獲得するルートを解明し、薬剤耐性菌の拡散防止策を構築することが目的である。 雑食動物としてイノシシ36頭(捕獲地:岐阜県内)、野生小型げっ歯類(ハタネズミ、ヒメネズミ及びヒミズ)7頭(長野県)及びツキノワグマ1頭(岐阜県)の計44頭、草食動物としてシカ11頭(岐阜県)及び魚食動物としてカワウ27羽(滋賀県、岐阜県)の腸内容物82検体を供試した。セファロスポリン耐性大腸菌は6検体(7.3%)から、キノロン耐性大腸菌は14検体(17.1%)から分離された。食性別では、セファロスポリン耐性大腸菌はイノシシの13.9%(5/36)とカワウの3.7%(1/27)、また、キノロン耐性大腸菌はイノシシの27.8%(10/36)とカワウの14.8%(4/27)からのみ分離された。また、カワウの捕獲地域に関して、耐性菌は全て岐阜県で捕獲した個体から分離された。以上、薬剤耐性大腸菌は草食動物に比べ雑食及び魚食動物において分布することから、食性の違いが耐性菌の分布に影響することが示唆された。 イノシシとカワウから分離された耐性菌の性状解析を部分的に実施したところ、セファロスポリン耐性大腸菌25株中にはESBL産生大腸菌は認められなかったが、キノロン耐性大腸菌69株中18株がフルオロキノロン(次世代キノロン)耐性を示し、また、1株がESBL産生大腸菌であった。野生動物の腸管内でこのような耐性菌が認められたことは人間社会からの薬剤耐性菌の拡散を示唆する知見であり、分離された耐性菌の性状を詳細に解析することで、自然界への放出ルートの解明が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
野生動物82個体から採取したサンプルを用いて薬剤耐性菌の保菌調査を計画に基づき実施し、次年度計画していた薬剤感受性試験などの基本的な性状解析に着手した。医療及び獣医療において重要な抗菌薬であるセファロスポリンやフルオロキノロンに対する耐性菌が抗菌薬による治療を受けない野生動物に分布すること、その分布が食性により異なることを明らかにした。薬剤耐性菌の伝播への関与の度合いは、雑食動物と草食動物で共通の食料となる植物で低いことが推察された。薬剤耐性菌の拡散ルートを解明するために胃内容物の解析を計画しているが、植物以外の動物類に重点を置く必要性を示唆する有益な知見が得られた。 特に、フルオロキノロン剤は医療及び獣医療で使用される合成抗菌薬で、自然界には元来存在していない化学物質である。また、分離した大腸菌のフルオロキノロン耐性機序が薬剤感受性試験の結果から染色体上のキノロン剤の標的酵素をコードする遺伝子の変異と推察されることから、野生動物の体内で出現したのではなく、野生動物がフルオロキノロン耐性大腸菌を獲得したと考えられる。これまで、フルオロキノロン耐性大腸菌は、人、家畜及び伴侶動物で報告されている。分離した耐性大腸菌の性状を詳細に解析することにより、伝播ルートの特定以外に放出源の解明につなげることが期待できる。 当初、雑食動物としてイノシシ、草食動物としてシカ及び魚食動物としてカワウを対象に計画していたが、雑食動物の捕食対象となる小型野生動物のサンプルを入手して解析することができた。山林で捕獲した小型野生動物からは、薬剤耐性菌が分離されなかった。調査した小型野生動物の捕獲地域がイノシシと異なるため薬剤耐性菌の伝播ルートを考察する根拠にはならないが、供試したイノシシの生息地域で小型野生動物の捕獲調査を実施することにより、地域性を考察することができる重要な知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
薬剤耐性菌は人類の社会生活を通して自然界へ放出され、自然環境を汚染している。食性の異なる動物間に分布する耐性菌を分子疫学解析するとともに、食餌内容の分析及び餌資源から薬剤耐性菌の分離を行い、薬剤耐性の伝播ルートを解明する。胃内容物の解析結果やこれまでに分担研究者が蓄積してきた知見に基づいて餌資源と想定される動物や昆虫などをイノシシやカワウの捕獲地周辺で採取して研究を推進する予定である。 【薬剤耐性菌の性状解析】薬剤耐性菌の放出源を推定するため、イノシシ及びカワウから分離された耐性菌の耐性機序、耐性因子等を分子疫学的に解析する。フルオロキノロン耐性大腸菌の耐性機序が遺伝子変異による場合、MLSTによる大腸菌の遺伝子型別を実施して、Web上のデータベースが充実している遺伝子型別法(マルチローカスシークエンス法:MLST法)を用いて人や家畜等と遺伝子型を比較する。また、同一地域で分離された耐性菌について関連性を明らかにするため、別の遺伝子型別法(パルスフィールドゲル電気泳動法:PFGE)により遺伝子型別を実施する。【食物の推定と細菌検査】1年目の調査結果から、草食動物から薬剤耐性菌が分離できなかったことから、小型哺乳類や昆虫等の小型動物や魚類を薬剤耐性菌の主要な伝播ルートと推定し、イノシシ及びカワウの生息地域で捕獲調査を実施する。捕獲サンプルから薬剤含有培地を用いて薬剤耐性菌を分離し、分離菌の耐性機構や性状を解析して、イノシシとカワウ由来耐性菌株との比較解析を実施する。【野生動物の胃内容物の分析】1年目に捕獲した動物等の胃内容物をポイントフレーム法により分析する。カワウに関して地域性が認められたことから、生息地域による捕食魚類の差異について解析する。 以上の解析により、薬剤耐性菌の放出源と放出ルートを明らかにし、放出源から放出ルートに至る経過を推定することができると考えられる。
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