2016 Fiscal Year Research-status Report
野生動物の食性の違いを利用した薬剤耐性の環境汚染経路の解析
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15K08770
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
浅井 鉄夫 岐阜大学, 大学院連合獣医学研究科, 教授 (10509764)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 正嗣 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90216440)
森元 萌弥 岐阜大学, 応用生物科学部, 特任助教 (50768348)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 薬剤耐性 / 野生動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究で分離された耐性菌の性状解析を実施した。第三世代セファロスポリン耐性(CTX MIC=>4mg/L)を示したイノシシ由来4株中3株はblaCMY-2を保有し、残りの1株はblaCTX-M-14を保有していた。また、フルオロキノロン(FQ)耐性(CIP MIC=>2mg/L)を示した3株はGyrAのキノロン耐性決定領域(QRDR)に一か所以上の変異とParCのQRDRに変異が認められた。一方、平成27年度に下呂(岩屋ダム、平成27年6~7月)で捕獲したカワウ由来セファロスポリン耐性及びキノロン耐性大腸菌の性状解析により、CMY-2やESBL(CTX-M-9グループ)産生菌や及びFQ耐性菌が分布することが明らかとなった。 琵琶湖で捕獲されたカワウ19羽の胃内容物は、アユ、ハス、スギモロコの順で,アユが63%を占めた。一方、下呂で捕獲されたカワウ8羽の胃内容は、ウグイ、アユ、カワムツの順で、ウグイが50%を占めた。捕獲地域によりカワウの捕食魚種構成に違いが見られた。 薬剤耐性大腸菌が分離されたイノシシが捕獲された金華山(岐阜市)で、昆虫(ムカデ、ヤスデ等9匹)や水飲み場のたまり水(2サンプル)中の耐性菌を調査した。セファレキシン含有DHL培地から、第一世代セファロスポリンに自然耐性を示すEnterobacterとSerratiaが分離され、ナリジクス酸含有DHL培地では耐性菌は分離されなかった。一方、下呂地域の馬瀬川及び和良川水系を5か所で河川水と川底の土砂10サンプル中9検体からキノロン耐性菌(Aeromonas、Citrobacter、Serratia、Enterobacter)が分離され、生息環境水系にキノロン耐性菌が存在することが明らかとなった。また、アユ9検体の糞便からセファロスポリン耐性大腸菌及びキノロン耐性大腸菌は分離されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度に医療及び獣医療において重要な抗菌薬であるセファロスポリンやFQに対する耐性菌が抗菌薬による治療を受けない野生動物に分布すること、その分布が食性により異なることを明らかにした。H28年度は、イノシシ由来耐性菌の解析と捕獲場所周辺における昆虫や環境材料を収集し調査した。 セファロスポリン耐性株の一部は、第三世代セファロスポリン耐性を示し、医療上問題となるCTX-M型ESBLや国内の家畜に広く分布するCMY-2βラクタマーゼ産生株であった。また、QRDRに複数の塩基置換を持つFQ耐性株が、FQが本来存在していない自然界で出現する可能性は極めて低い。これらの成績は、人の日常生活や家畜生産等から耐性菌または耐性遺伝子が放出され、野生動物に定着したことを強く示唆している。 イノシシやカワウが捕食する可能性がある生物(昆虫や川魚)と水飲み場のたまり水や河川水サンプルの調査では、セファロスポリンやキノロン耐性大腸菌は分離されなかったが、昆虫やたまり水から腸内細菌が分離されたことから、これらが動物の糞便と接触することが示唆された。一方、カワウに関しては予備調査ではあるが、比較的薬剤耐性菌の検出頻度が高かった捕獲場所の周辺水系において河川サンプルからキノロン耐性菌が分離されが、生息するアユから分離されないといった矛盾した結果であった。生息域の環境調査から、伝播ルートに関する様々な可能性が示唆され、今後の調査方針を決める上で有益な情報蓄積が図れたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
人類の生活から自然環境へ放出された薬剤耐性菌や耐性因子は、食物連鎖により野生動物の腸管内で蓄積・維持される。そこで、生物選択の視点から食性の異なる野生動物における薬剤耐性菌の汚染状況を解析して、野生動物が薬剤耐性菌および耐性因子を獲得するルートを解明し、薬剤耐性菌の拡散防止策を構築することが目的である。 薬剤耐性菌の性状解析については、耐性菌の耐性機序、耐性因子等を分子疫学的に継続して解析する。特に、FQ耐性大腸菌の耐性機序が遺伝子変異によることが確認できたことから、直接的な伝播ルートが存在することが強く示唆され、マルチローカスシークエンス法(MLST)やパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)により大腸菌の遺伝子型別を実施して、人や家畜等と遺伝子型との比較や同一地域で分離された耐性菌について関連性を明らかにする。 昆虫や魚類を対象にした予備調査から、生息域における腸内細菌や耐性菌の汚染が確認されたことから、昨年度より調査範囲を広げるとともに、調査回数を増やして、継続的な環境調査を実施する。特に、カワウの胃内容の分析から、捕獲地域において捕食魚種に違いが認められたこと及び漁協関係者等からの聞き取りでは、両河川では4月に琵琶湖及び岐阜県水産試験場(美濃市)産アユ、ワカサギ、ウグイ、ウナギなどの稚魚を放流されていたことから、優勢魚種や放流魚種を中心に耐性菌の分布を調査する。 以上の解析を実施することで、薬剤耐性菌の放出源と放出ルートを明らかにし、放出源から放出ルートに至る経過を推定することができると考えられる。
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