2017 Fiscal Year Research-status Report
ブドウ球菌の動く遺伝因子「SCC複合体」の新規遺伝子構造と分子疫学的性状解析
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15K08781
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
漆原 範子 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (80396308)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 宣道 札幌医科大学, 医学部, 教授 (80186759)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ブドウ球菌 / コアグラーゼ陰性ブドウ球菌ゲノム / SCC / ACME / 水平伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブドウ球菌属細菌はわが国の主要な感染起因菌である。中でも血液凝集素コアグラーゼを分泌し,様々なタンパク性毒素を産生する黄色ブドウ球菌は,医療機関で分離される感染起因菌の中で23.9 % を占め,最も多い。ブドウ球菌属の他細菌はコアグラーゼを持たずコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)と総称される。CoNS は病原性は低いが耐性獲得が早く,多剤耐性菌の割合も高いことから新規耐性遺伝子作成プールと位置づけられている。 Staphylococcus Cassette Chromosome (SCC)はブドウ球菌ゲノムにおける可動性の遺伝子エレメントで,メチシリンをはじめとした抗生物質・重金属等に対する耐性遺伝子が,種間あるいは種内で水平伝播する際の『運び屋』として機能する。メチシリン耐性を担う mecA 遺伝子をコードする SCCmec はその代表例であり,その型別判定や遺伝子配列の比較解析がブドウ球菌の分子疫学解析に適用されている。他方,アルギニン代謝系酵素をコードする遺伝子群を持つ SCC として ACME が知られており,菌の宿主組織への定着を高め,低 pH 耐性を付与するといった生物学的に優位な形質を菌体に付与すると考えられている。 本年度は,昨年度に2013-2014年に北海道内の医療施設から分離された MRSA 中の3株に見出された speG 遺伝子を含む新規の ACME-SCCmec 複合体に着目し,その全領域の配列の決定を行なった。既存の配列とは異なる新規の配列を含んでいると予測された為,次世代シークエンス法による決定を行なった。現在解析を進めている。 更に,2015年以降に収集した MRSA の中に,我々が代表的な CoNS である表皮ブドウ球菌臨床分離株に見出した ACME亜型と類似の配列を見出した。CoNS からの水平伝播の可能性を示唆するものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
課題の研究開始当初は,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)を中心に SCC の遺伝子構造解析を行なっていた。黄色ブドウ球菌の SCCに比べて CoNS の SCC は多様であり,黄色ブドウ球菌で確立されている解析法を適用できない場合が多く,遺伝子構造の解析に予測以上に時間を要した。平成28年度より,解析対象検体における黄色ブドウ球菌の比率を高め,黄色ブドウ球菌での SCC新規構造を元に CoNS の SCC 配列決定に応用する方針に変更した。平成29年度は次世代シークエンス法を用いるなどして,黄色ブドウ球菌ゲノムの新規 SCC 構造のデータ集積に努めた。
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Strategy for Future Research Activity |
表皮ブドウ球菌や S. haemolyticus を含むコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)は,新規遺伝子を作成し,SCC の水平伝播を介し,それらを病原性の高い黄色ブドウ球菌へと供給しているとのモデルが考えられている。 コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)の中で,S. haemolyticus は特に耐性獲得が早く,遺伝子改編頻度も高いと考えられている。平成27年度に行った SCC 遺伝子複合体の構造解析では,既報の配列と一致せず,未同定の検体が多かった。平成28-29年度に行った黄色ブドウ球菌ゲノムの SCC 遺伝子構造解析で得られたデータも参照にし,SCC 複合体の遺伝子構造が未同定であった上記の S. haemolyticus 検体の再解析を行う。 一方,我々は代表的な CoNS である表皮ブドウ球菌の臨床分離株のうち,2012年に分離したゲノム内に ACME I の亜型を見出し,報告している(Onishi M et al, 2013)。2015年に分離した黄色ブドウ球菌ゲノム内にこの配列と類似の配列が在ることを示唆する結果を得ている。その周辺配列も含めた塩基配列を決定し,比較ゲノム解析行い,CoNS から黄色ブドウ球菌への遺伝因子の水平伝播の可能性を探る。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:平成27年度から平成28年度へ 437,587 円を繰り越した。既に講座内に保存済みの菌体ゲノムの解析に時間を要し,新規検体の収集を行わなわず,それに必要な試薬・実験機器類の購入を行わなかったためである。平成28年度ならびに平成29年度は,ほぼ予定した金額を執行したので,初年度に繰り越した未使用分に相当する額を平成30年度へ繰り越すこととなった。加えて全体的な研究の進捗状況もやや遅れていることから研究期間の延長を申請し,受理された。 使用計画:未同定であったゲノム解析に必要な消耗品代(酵素をはじめとする分子生物学実験に必要な試薬代)として用いる。外部に解析を委託する必要が生じた場合は,そちらを優先して用いることとする。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Prevalence and Genetic Characteristics of Staphylococcus aureus and Staphylococcus argenteus Isolates Harboring Panton-Valentine Leukocidin, Enterotoxins, and TSST-1 Genes from Food Handlers in Myanmar.2017
Author(s)
Aung MS, San T, Aye MM, Mya S, Maw WW, Zan KN, Htut WHW, Kawaguchiya M, Urushibara N, Kobayashi N
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Journal Title
Toxins
Volume: 9
Pages: 241-253
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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