2015 Fiscal Year Research-status Report
デング熱の予防対策を動機づける要因の解明:医科学・社会科学併用によるアプローチ
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15K08804
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉川 みな子 京都大学, グローバル生存学大学院連携ユニット, 特定准教授 (70636646)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | デング熱予防対策 / 媒介蚊防除 / 地域社会の安全・安心 / 医科学と社会科学の併用 / アウトリーチ(予防啓発活動) / 情報還元 / 行政との連携 |
Outline of Annual Research Achievements |
追加採択後文献収集・精査に着手し、ヒトの移動が激しい熱帯の都市国家シンガポールにおける臨地調査により、近年の流行時(2013年~14年)の教育活動に関する情報と一時資料を収集した。また、環境・水資源省傘下の国家環境庁および保健省傘下の健康増進委員会が住民を対象として開催した蚊媒介性感染症予防・健康増進に関するイベントに合計4回参加し(例:デング熱・ジカ熱予防の全国キャンペーン)情報収集した。本研究の共同研究者が所属する国家環境庁とは緊密に連絡を取り合いつつ、適宜調査結果について意見交換および情報還元を行っている。国際学会への参加は見送ったが、国内では学会発表を1度行うとともに、域内外のデング熱発生動向および最新の研究成果について、国立感染症研究所を含む2か所において中間報告・情報収集も実施した。
蚊媒介性感染症の予防啓発の必要性の高まりとともに、国内外の日本人に関する実態把握の重要性も鑑み、国立感染症研究所メンバーが班長を務める研究班に協力しながら本研究のさらなる発展を目指すこととした。本研究はまず現地の国民・永久居住者を対象として調査する予定だったが、順序を入れ替えこれら以外の住民(例:外国人居住者)について予防活動への関与を調査することとし、その一環として在留邦人を対象としてアンケート調査を実施し(倫理委員会承認済)、現在解析中である。平成28年1月にデングウイルスと同じフラビウイルス属のジカウイルス感染症が中南米を中心に流行したため、現地在留邦人社会において予防知識へのニーズが高まったことを鑑み、中間報告も含めて社会還元としてのアウトリーチ活動を開始した(当初最終年度に計画)。在日本大使館等の後援と国家環境庁の協力を取り付け、予防啓発として成人を対象とした講演および小学生を対象とした参加型セミナーを2日間にわたり合計6回、小学校教員との意見交換のセッションを2回行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
追加採択による研究期間の短縮の必要性から、調査許可の手続きに約半年を要するインドネシア共和国を割愛し、調査地をシンガポール共和国に絞ったことは妥当であったと考える。10月以降開始した文献収集は順調に進展しているが、追加採択前に着手していた教育活動の比重が平成28年2月まで高く推移したため、文献精査にやや遅れが見られる。一方、シンガポール政府による住民を対象とした教育活動の詳細を臨地調査により順調に入手できている。
第3四半期頃から現地ではデング熱の知識普及と予防対策の周知の必要性がそもそも高まっていたなか、当初予期していなかったジカウイルス感染症(我が国でも4類感染症に指定された)が中南米で流行し国内外のメディアを賑わせた。このため一般市民の予防啓発の重要性を鑑み、臨地調査項目の順序を変更し、シンガポール在留邦人を対象に蚊媒介性感染症の知識普及を行うために現地行政とも連携したアウトリーチ活動を国内研究者と協働して行った。これにより現地社会の安全・安心の改善に寄与できた意義を評価している。この活動に付随してデング熱予防活動への関与に関するアンケート調査(倫理委員会承認済み)を行うとともに、民間企業社員のデング熱意識に関する聞き取り調査も実行し、シンガポールにおける外国人のデング熱対策に関する調査を前倒しで開始した。
前述のアウトリーチ活動を2年前倒しで、外国人居住者(まずは在留邦人)の調査を1年前倒しで開始したので、当初本年度に予定していた国民・永久居住者による予防活動への関与を明らかにするための調査活動を次年度に繰り越すこととした。社会科学的な要因の解明にかかせない住民組織を通じた一般市民からの調査協力の土台固めは本年度に実行済みであるので、繰り越した調査項目を次年度に遂行する準備は十分できている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は研究活動のためにより多くの時間を充当できる環境が整った(過去4年間大変負担の重かった教育活動を平均的なものとする)ので、年度内に文献精査の遅れを挽回しつつ、文献調査、臨地調査、社会還元、成果(中間)発表を行う予定である。
平成28年度には前年度より繰り越したシンガポール国民・永久居住者によるデング熱予防活動への関与の実態を明らかにするための調査を行う。当局からのさらなる情報収集を通じて、流行時および平時の対策を比較し、外国人居住者への政府による予防活動の有無についても調査する。このうち在留邦人に関しては、現地当局の活動を支援(例:4つの公用語で作成された教育普及資料の和訳)し、現地の公衆衛生の改善への貢献を試みる。現地社会からの要請に応じて、在留邦人を対象としたアウトリーチ活動を継続し、時系列的な考察の材料とするため国内研究者と協働してアンケート調査も継続する。ジカウイルス感染症に関する予防啓発や知識普及のニーズが一層高まる可能性があるので、国内外で情報収集を積極的に行う。以上により医科学・社会科学を併用して行う解析に必要な定量的・定性的なデータは、平成28年度末までにほぼ揃う見込みである。
最終年度に計画している住民組織、関係省庁、在日本大使館等への研究成果の還元を視野に入れ、平成27年度に行った調査結果の一部をまず28年7月にの国内学会で中間報告として行う(抄録提出済)。収集した定量的なデータについては平成28年5月より医科学的なアプローチによる統計解析を開始し、定性的なデータの分析を加えて検討を重ねる。平成28年3月までの臨地調査の活動報告を12月に行われるワン・ヘルス国際会議において行い、ヒト‐(媒介)動物‐環境の研究分野との関連も考察しながら研究を展開する。平成29年度は本研究結果をとりまとめつつ、学会報告、論文公表、社会還元活動を行う計画である。
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Research Products
(2 results)