2016 Fiscal Year Research-status Report
デング熱の予防対策を動機づける要因の解明:医科学・社会科学併用によるアプローチ
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15K08804
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉川 みな子 京都大学, グローバル生存学大学院連携ユニット, 特定准教授 (70636646)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | デング熱予防対策 / 媒介蚊防除 / 地域社会の安全・安心 / 医科学と社会科学の併用 / アウトリーチ(予防啓発活動) / 情報還元 / 行政との連携 / ジカウイルス感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
ジカウイルス感染症が前年度末2月から南米を中心として拡大し、本研究で扱うデングウイルスを媒介する蚊がジカウイルスの媒介能を有するため、両疾患についてとくに媒介蚊を中心とした最新情報の収集活動を4月以降東京、大阪において計5回行った。 一方、東南アジア地域を対象として、シンガポールにおいて6月、10月、3月に合計3回臨地調査を実施した。年初に過去の流行時より月ごとのデング熱報告数が上回ったため、当局が警戒を強めるとともに、ジカ熱の現地における発生にそなえてベクターコントロールおよび一般市民への働きかけを強化し続けたため、2013年と2014年の流行時と平時の際の当局の対策の違いについての比較検討は困難となってしまった。その反面、シンガポール環境庁のヴォルバキア感染オス蚊の放虫作業にも現地住民とともに加わることができた。また、現地のデング熱ボランティアを対象とした政府主催のイベントにも参加し、参与観察を行うことができた。とくに3月の調査では行政の支持もとりつけて、シンガポール国民および永久居住者を対象としたアンケート用紙を用いた街頭調査を2日間に渡って実行した。当該調査では、予定どおり100名分のデータを収集し、現在そのデータ整理および分析に取りくんでいる。 本研究の成果の情報還元として、11月にはフィリピンのマニラ市の日本人会において、「知っておきたい感染症を媒介する蚊を寄せつけない対策」と題するアウトリーチ講演を行った。また中間報告・意見交換については、7月および11月に国内学会における発表を2回、オーストラリアにおける国際学会において発表を1回、国内研究会における発表を1回、それぞれ筆頭演者として行い、ほかの地域の研究者らと意見交換した。とくに当初の計画どおり、オーストラリアでは東南アジア地域以外におけるデングウイルス感染症の発生事例について情報収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度も引き続きデングウイルス感染症に加えて、ジカウイルス感染症に対する予防啓発の社会的なニーズが高く、本研究にて調査するシンガポールにおける外国人居住者としての在留邦人に加えて、マニラ在留邦人を対象にアウトリーチ活動およびアンケート調査を行った。これは協力関係にある研究者と共同で行ったもので、フィリピン国内の蚊媒介性感染症の流行状況および蚊防除対策に関する知識普及としての講演をマニラ日本人会において行うとともに、デング熱・媒介蚊の意識調査も実施した。この結果はシンガポール在留邦人を調査し得られた結果との比較検討に大いに役立つであろう。同様に、日本国民を対象としたジカ熱の意識調査も行い、学会・論文発表に共同演者、共著者として寄与した。 マニラでの活動と国内のジカ熱調査に時間と労力を割いた分、シンガポールにおけるデング熱に関する調査期間がやや短くなったが、国民・永久居住者による予防活動への関与を明らかにするための調査活動を3月訪問時に終えた。この調査は、現地当局の了解を得て、国際共同研究として実施した。実際の街頭調査活動は、住民組織の理解および現地リーダーの協力を得て実施した。これにより、環境庁による教育活動・普及内容に沿ってどのぐらいの人々が蚊防除を実行しているのかを調べ、また彼ら・彼女らの外国人に対する意見も聴取することを試みた。当該調査により定量的および定性的なデータがほぼそろってきた。 平成27年度、28年度の調査により得られた定量的なデータは、既に国内外の学会にて発表済みである。既に筆頭著者として3編の論文を作成し、必要な統計解析を経て現在1編は査読中、2編は共著者が最終確認作業中である。また、当局のアウトリーチ活動の一部については、国内の研究会で報告済みであり、次年度の研究結果とりまとめ作業に役立てる準備ができている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は平成27年10月の追加採択時に、研究期間短縮に伴い申請時当初の計画を修正したものではあるが、研究開始後の18ヶ月間でデータ・情報の収集が予定どおり進んでいる。その一方、ジカウイルス感染症の南米における流行、東南アジア地域における同症の国内流行の報告という、当初想定していなかった状況も起こり、今後も柔軟に対応する必要性がありそうだ。 引き続き日本国民や在留邦人への情報提供のニーズが高いので、本研究の最終年度である平成29年度にも、住民組織、関係省庁、在日本大使館などをはじめとして、社会還元活動をシンガポールにおいて11月に計画している。その際には補足するべき現地データがあれば、収集活動を行うとともに、環境庁の共同研究者との打ち合わせを行う。また時間と財源が確保できれば8月にも渡航し、上記の準備を行いたいと希望しているが、実現が難しい場合には現地関係者および共同研究者とはメール等で常時連絡がとれているので、遠隔からの対応としたい。 5月には本研究で過去18ヶ月間にわたって収集してきたシンガポール当局のアウトリーチ活動について、国際学会にて報告することが既に決まっている。これを終えた後、これまで現地調査により得られたデータ・情報に関して、文献を活用して地政学的・経営学的な考察を6~10月に行う方針である。臨床現場からの症例報告、ウイルス遺伝子解析などの最新の研究報告としてほぼ毎週のように新しい関連論文が発表されるため、文献精査がやや遅れがちであるのでピッチをあげたい。11月には、前述のシンガポール渡航後、月末にかけて開催される日本渡航医学会をはじめとする3つの医学系学会の合同学術大会において、最新の知見に関する評価を意見交換・情報収集し、本研究の進捗度をも確認する予定である。本研究の成果の統括となる最終考察は、12月~2月に計画し、3月に論文としてとりまとめる方針である。
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Causes of Carryover |
最終年度の当初配分の直接経費では不足が見込まれることから、海外調査を有給休暇を活用して行い、当該旅費を個人負担した【2016年10月】。さらに、学内の本年度使用の個人研究費を本研究に必要であったそのほかの旅費、統計ソフトの購入代金等の支払いに活用した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初より研究最終年度に計画している研究活動を遂行するためには、費用が不足することが予想できていた。とくに、国際学会、国内学会をはじめ社会還元を行うための東南アジア地域への渡航に必要な旅費について、当該年度分を繰り越すことにより最終年度の活動費用を補う予定であり、研究費の執行に問題はないと考える。
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Research Products
(9 results)