2016 Fiscal Year Research-status Report
肺動脈血栓塞栓症における脂質メディエーター動態への抗精神病薬の影響
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15K08877
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
米満 孝聖 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (10128332)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 肺動脈血栓塞栓症 / 抗精神病薬 / 脂質メディエーター / LC-MS/MS / 法医解剖 |
Outline of Annual Research Achievements |
1) 凝固関連脂質メディエーター(LMs)として6-keto-PGF1α とTXB2およびその他数種のプロスタグランジン化合物の分析装置(Shimadzu LCMS-8040)での検出限界を確認したところ、化合物によって感度は異なり、注入絶対量として0.5~1.5pgであった。また、LMsの重水素置換体を用いた内部標準法で検量線を作成したところ、定量限界は100~300 pg/mLであった。 2) Wister系ラット血漿(200-400μL)を試料としてLMsの抽出法について検討した。TXB2は通常の抽出法で検出されたが、6-keto-PGF1αでは抽出液の濃縮操作が必要であった。正常ラット血漿中のTXB2濃度は1000pg/mL前後であり定量可能であったが6-keto-PGF1αは、ピークは確認できたが定量限界以下であり試料量や抽出法を更に検討する必要がある。なお、血漿試料に200pgを添加した場合の回収率は6-keto-PGF1αが75%、TXB2が104%であった。 3) 肺動脈血栓塞栓症と診断された9例の法医解剖事例における血栓の性状、肺動脈内膜の肥厚について検討した。9例のうち4例では器質化した血栓、7例では新鮮血栓が観察され、そのうちの4例ではそれらが混在していた。また、全例で肺動脈内膜の肥厚が認められた。 4) 法医解剖事例の凍結保存血清200μLを試料としてLMsを抽出して6-keto-PGF1αとTXB2を定量分析した。検出限界を考慮して、ピーク面積>1000かつピーク高>200の条件で定量波形処理した結果、6-keto-PGF1α /TXB2濃度比の平均は、肺動脈血栓塞栓症群(5例)では0.32±0.33、コントロール群(心臓性突然死事例11例)では0.63±0.74であり統計学的有意差は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
脂質メディエーター(LMs)分析では検出感度を上げるために試料量および濃縮操作の最適化のための予備実験が必要であった。特に6-keto-PGF1αの定量には更に工夫が必要であり、抽出法の最適化について現在追加実験中である。また、熊本地震の影響もあってラットを用いた動物実験も遅れていたが、現在実施中である。 法医解剖事例を用いた解析は事例数を増やして検討するために検索範囲を2015年までに広げたが2012年以降では肺動脈血栓塞栓症と診断された事例は1例のみであった。現在、血栓形成に関する時間的経過を考察するために事例の周辺状況を知るために更に解剖情報を調査中である。また、冷凍保存血清中LMsの定量分析については、6-keto-PGF1a の濃度がラット血漿中よりも高かったので一部の事例では定量可能であった。ただし、これらの濃度の意義付けについては6-keto-PGF1αの分析精度や死後変化などを踏まえて慎重に考察する必要がある。ラットを用いた動物実験に合わせて再分析して結果を評価する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1 ラットを用いたクロザピンの慢性投与実験と共に、LMs分析の技術的問題である6-keto-PGF1αの検出感度を更に上げるための検討を行い、7月頃までにLMsと凝固関連因子および病理組織変化のデータを得る。これまで、血液凝固に関連する脂質メディエーターのうちアラキドン酸のシクロオキシゲナーゼ(Cox)代謝物である6-keto-PGF1αとTXB2に着目して検討してきたが、それらの濃度比は統計学的に優位なものではなかった。そこで、分析対象をCox代謝物のみでなくリポキシゲナーゼとCYPによって生成されるLMsにも広げて解析する予定である。分析条件の最適化後にそれらのLMsの動態にも注目してクロザピンによる影響について検討する。 2 法医解剖事例について更に詳細に検討する。これまでに得られている血栓の陳旧度や動脈内皮の肥厚の状況などの組織学的所見の成立機序を説明するために解剖事例情報を詳細に検討する。特に、新鮮血栓と陳旧血栓が混在する事例は塞栓形成が複数回繰り返されていたことを示す所見として重要である。また、動物実験と同様に、保存血清中のLMs分析の対象化合物を広げて、LMsの再分析、再解析をする予定である。 3 得られたLMs分析と凝固関連因子の結果、病理組織学的所見および解剖事例情報を基にして抗精神病薬服用者における肺動脈血栓塞栓症の特徴、および肺動脈血栓塞栓症予防のための方策について考察する。
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Causes of Carryover |
LC-MS/MSを用いた脂質メディエーター(LMs)分析の検出感度および精度を上げるための追加実験が必要であったこと、また熊本地震による影響もあり、予定していた動物実験が遅れたために付随する消耗品および分析関連機器の購入ができなかった。また、それらの影響により目標としていた国際学会発表にエントリー出来なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越した消耗品費はクロザピン慢性投与実験に使用する実験動物、関連する消耗品と機器の購入、および現在使用しているLC-MS/MS用の分析カラムと保守用部品の購入に用いる。旅費については、日本法医学会学術全国集会および地方集会への参加を予定している。
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