2015 Fiscal Year Research-status Report
入浴死の病態と死因の解明:各臓器のアクアポリン,熱ショック蛋白の発現を指標として
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15K08878
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
林 敬人 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 講師 (40512497)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 入浴死 / 死因診断 / 鑑別診断 / アクアポリン / 熱ショックタンパク質 / 予防医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでわれわれは,鹿児島県の浴室内突然死(入浴死)について継続的に疫学的調査を行い,病態の解明と積極的な予防対策の必要性があることを報告してきた。そこで今回新たに,溺死モデル動物及び実際の入浴死剖検例を使用して,各臓器における水輸送蛋白aquaporin(AQP)s並びに熱ショックタンパク質heat shock protein(HSP)sの発現変化を検討することで入浴死の病態を解明する研究を企画した。まず,平成27年度は実際の剖検例の肺におけるそれらのタンパク質の発現について免疫組織学的に検討した。 死後72時間以内の入浴死12例(原因不明の溺死8例,心疾患を合併した溺死2例,溺死所見のない虚血性心疾患2例),淡水(河川)溺死9例,海水溺死11例,虚血性心疾患8例の肺のホルマリン固定後パラフィン包埋切片を用いて,AQP1, 5並びにHSP70に対する免疫染色を行い,各群で陽性率を比較した。AQP5はⅠ型肺胞上皮細胞に発現し,淡水溺死と入浴中溺死では,陽性率が他の群と比較して有意に低値を示した。一方,AQP1は血管内皮細胞に発現し,AQP5とは対照的に海水溺死,虚血性心疾患並びに入浴中の虚血性心疾患で陽性率が有意に低値を示した。HSP70はⅠ型肺胞上皮細胞及び肺胞内マクロファージに発現し,入浴中溺死では肺胞上皮細胞の陽性率が淡水溺死をはじめ他の群のいずれよりも有意に高値を示した。入浴中溺死群におけるHSP70発現の増加は,肺胞内に流入した温水の熱刺激によって発現が誘導されたためと考える。 以上の結果から,肺におけるAQP1,5・HSP70発現の検討は,入浴死の病態解明・死因診断のために有用な検査法になる可能性が示された。特に,HSP70は入浴中溺死で特異的に発現が増加するため,極めて有用であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
入浴死剖検例について予定通り検討に充分な事例数を収集することができた。また,前項に記載したように,水輸送蛋白アクアポリンや熱ショックタンパク質の発現変化が入浴死の病態解明・死因診断に有用なマーカーとなる可能性が示唆され,予想以上の結果が得られたものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
入浴死剖検例の検討例数を増やし,水輸送蛋白アクアポリン,熱ショックタンパク質の他のサブタイプの発現,肺以外の臓器におけるそれぞれの発現についても検討することで,入浴死における病態特異的なマーカーの確立を目指す。さらに,溺死モデルマウスを使用した動物実験によって,剖検例では検討できない湯温との関係や入浴から死亡までの経時的な病態変化など,入浴死の病態の全容解明を目指す。
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Research Products
(6 results)