2016 Fiscal Year Research-status Report
誤嚥による肺の異物反応が嚥下性肺疾患や炎症性肺疾患に及ぼす病態上の意義
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15K08899
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 泰弘 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60376473)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
栗原 由紀子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (80345040)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 誤嚥性肺炎 / 異物 |
Outline of Annual Research Achievements |
肺内の食塊に対する異物反応は、嚥下性肺炎の病理学的診断の根拠となり、衰弱した高齢者にしばしばみられる。しかし、肺の異物反応が生体に及ぼす影響は検討されていない。 我々は、食塊の代表的な異物としてセルロースを用いた新しい誤嚥のマウスモデルを作製し、肺内の異物反応とその全身への影響を明らかにするための実験を実施した。まず、粒子径 0.02mmのセルロースパウダーをPBSに100mg/mlおよび10mg/mlになるように懸濁し、オートクレーブ滅菌したものを用意した。ケタミンとキシラジンの腹腔内投与にて深麻酔したマウスの気管切開を施行し、0.1mg/g BWおよび 0.01mg/g BW のセルロースを経気管的にC57BL/6jマウス肺内に投与した。まず、各濃度のセルロースおよびコントロールとしてのPBS投与後5時間後, 24時間後, 7日後に気管支肺胞洗浄液 (BALF) 中の細胞数と細胞分画を評価した。その結果、0.1mg/g BW の投与により、24時間後のBALF中細胞数および好中球数は顕著に上昇し、7日後には、特に好中球数はコントロールと同じレベルとなった。次に、この肺での異物反応に伴うサイトカイン動態を検討した。MMP-1, MMP-12, TNF-α, MIP-1α, MIP-2, IL-8の発現量を全肺からRNAを抽出し、定量的PCRにて測定したところ、0.1mg/g BWおよび 0.01mg/g BW のセルロース投与のいずれにおいても、コントロールと比較して、5時間後および24時間後において、MIP-1αの発現の上昇がみられた。A549細胞培地にセルロースをおくことでも、5時間後および24時間後にMIP-1αの発現の上昇がみられた。MIP-1αが、異物反応を限局化するために重要な働きをしていると予想している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画とおり、サイトカイン動態の解析と細菌感染モデルでの検討を、ほぼ終えることができた。ただし、セルロースパウダーを用いた、食塊の誤嚥のモデルマウスの作成は、全く新しい試みであり、再現性のある条件の至適化には予想以上に時間を費やした。さらに、当初計画していなかった細胞でのサイトカインの動態についても解析することができた。しかし、異物の存在により細菌感染が悪化すると予想していたが、異物による肺障害の強い状態では細菌感染が悪化するものの、低濃度のセルロース下では再現性のある結果はえられなかった。さらに細菌感染実験の難度が高いため、抗生物質による治療効果への影響など、当初予定していた研究の一部は施行しない方針とした。それでも、肺における異物反応の研究は、これまでにないものであり、器質化肺炎像を動物モデルで検討したものもわずかである。これらの病態をサイトカインレベルで明らかにする意義は大きく、全体として、おおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、食塊誤嚥モデルでのサイトカイン動態の解析をさらに発展させる。すなわち、同モデルマウスのBALF中の上記サイトカインやIL1betaの蛋白濃度をELISA法により評価する。また、セルロースパウダーの直接的な作用を評価するために、A549肺腺癌培養細胞に加えて、単球由来細胞にセルロースパウダーを投与したときの上記おサイトカインの発現を、real-time PCRにより評価する。さらに、当初の計画を進展させて、肺の異物反応におけるMIP-1αの機能を調べるために、セルロース投与と同時に、その中和抗体を腹腔内投与し、異物反応の変化を病理学的に評価する。 あわせて、異物反応下の塩酸による急性肺損傷モデルを評価する。セルロースとpHをふった塩酸の混合液を、深麻酔下においたマウスの肺内に経気管的に投与し、day 1 と day 7 に肺組織像、気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞浸潤の評価、肺重量のdry/wet 比の測定を行い、異物反応の存在下では、より高いpHでも細胞傷害を起こす可能性を検討する。本モデルでのサイトカインの発現およびサイトカイン濃度の評価は、分担研究者栗原とともに行う。 また、異物反応が気道過敏性に与える影響の評価についても計画している。セルロース投与day 5, day 17 および day 35のマウスおよびコントロールマウスを、深麻酔下で気管カヌラを通して人工呼吸器と接続し、様々な濃度のメサコリンを2分間ずつ吸入負荷し、その間に気道内圧、気流を測定し肺抵抗を算出し、その用量反応曲線から気道過敏性亢進の有無を評価する。これらのモデルでのサイトカインの発現およびサイトカイン濃度の評価は、分担研究者栗原とともに行う。
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