2015 Fiscal Year Research-status Report
ヒト検体を用いた消化器癌幹細胞の分化制御機構の解明と遠隔転移抑制法の確立
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15K08970
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
馬場 英司 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00315475)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
有山 寛 九州大学, 大学病院, 助教 (80713437)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 消化器癌 / 癌幹細胞 / スフェア / 上皮間葉転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ヒト消化器癌幹細胞の分化、非癌幹細胞の幹細胞性獲得、上皮間葉転換(EMT)などの過程に関わる分子機構を解明することで、消化器癌幹細胞自体を標的にした治療法、EMT過程に伴う癌の浸潤、転移を阻害する治療法の開発を目的としている。そのためには、(1)ヒト消化器癌臨床検体(手術検体、癌性胸腹水など)にわずかに含まれる癌幹細胞を分離する、(2)単一癌幹細胞より安定した培養系を確立する、(3)これらの培養細胞の分化、あるいはEMTを再現する過程における単一細胞レベルでの遺伝子発現・蛋白発現プロファイルを解析する、ことが必要である。(1、2)に関しては、本研究計画立案時に、既にヒト大腸癌幹細胞(EpCAM高発現, CD44陽性)をフローサイトメトリー(FACS)により分離し、培養によりスフェア形成の観察が可能となっていた。平成27年度には新たに胃癌手術検体、膵臓癌手術検体からの癌幹細胞の候補集団を効率よく分離、培養する条件の最適化を図っている。また複数の癌腫における胸腹水中の癌幹細胞も対象としている。大腸癌と異なり、胃、膵臓の癌幹細胞のスフェア形成にはニッチ細胞との共培養を要することが判明した。(3)に関しては、平成27年度には単一の大腸癌幹細胞から得られたスフェアを単一細胞化して、 FACSおよび単一細胞PCR法を用いて分化とEMT過程の遺伝子発現レベル、蛋白レベルでの層別化を継続している。手術検体から採取された新鮮な大腸癌細胞、スフェア由来細胞は、遺伝子発現パターンにより2-4の集団に亜分類可能であった。本年度から次年度にかけて、これらの細胞集団を選別可能とする代表的な発現遺伝子の同定に取り組み、さらにその分子の癌幹細胞性における機能の解析も実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画に必須であるヒト消化器癌幹細胞の分離、培養については、大腸癌検体および癌性胸腹水検体はほぼ安定して実施されている。そのため大腸癌幹細胞の分化制御機構についての知見がより早く蓄積できると予想される。一方、本年度新たに進めている胃癌、膵臓癌幹細胞の分離、培養は、より安定で効率の良い最適条件を探索中である。分離、培養によりスフェア形成が観察された癌幹細胞については、抗体による多重染色を行いFACS解析、および単一細胞PCR法による遺伝子解析、さらに免疫不全マウスへの移植の実験も安定して実施できている。多数検体で単一細胞PCRを実施することは経費の点からも困難があるため、既に得られた遺伝子発現パターンの情報を基に、癌幹細胞の分化やEMT過程の違いによる細胞集団を代表する少数の遺伝子の選別を行っている。平成28年度以降の研究計画に含まれている、臨床検体由来癌細胞へのEMT関連遺伝子の導入も準備を進めており、平成28年度にはその細胞を用いた解析は可能と見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト臨床検体より分離し培養した大腸癌幹細胞は、スフェア形成過程あるいは免疫不全マウス移植での造腫瘍過程を通じて癌幹細胞から非癌幹細胞への分化を再現すると考えられる。現在我々は、この分化は2-4の段階を経ていると想定しており、単一細胞PCR解析を進めることで、それぞれの段階に特異的に発現する遺伝子の同定、そしてその遺伝子産物の癌幹細胞性や転移・浸潤能における生物学的機能の解明を目指す。得られた知見の妥当性を確認するには多数の臨床検体を用いた測定が必要と見込まれるため、より簡便で適切な測定指標を探索する。この探索により生物学的機能を有する分子を同定した後には、癌細胞におけるこれらの機能の修飾により、癌幹細胞性や転移・浸潤能、および薬剤耐性への影響を解析する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度の研究成果により、大腸癌の単一幹細胞から形成されるスフェアは、癌幹細胞から非癌幹細胞への分化過程で複数の段階を経ていることが判明した。これはスフェア細胞の単一細胞PCR解析により、特定の遺伝子群の発現パターンによって層別化することが可能であった。これを実証するためには多数の大腸癌患者検体から同様の解析を行う必要があり、当該遺伝子群を検出する特異的な試薬を慎重に選別後、次年度に実施することとした。また本年度は胃癌や膵癌の癌幹細胞の分離、培養法の最適化の検討を進めたため、次年度にはその手法に沿ってより多くの検体を用いた培養実験を要することが予想される。以上の理由から次年度使用額が生じたものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のように多数の臨床検体からのスフェアを用いた単一細胞PCRに用いる試薬、また大腸癌の他、胃癌、膵臓癌の癌幹細胞の分離、培養に必要な試薬の購入に充てる予定である。以上の研究項目に加え、当初より平成28年度実施計画であった、癌幹細胞の分化過程の指標となる特定の分子の機能解析、EMT関連遺伝子を導入した癌細胞の解析を合わせて実施する。
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Research Products
(3 results)