2016 Fiscal Year Research-status Report
C型肝炎ウイルスによる炎症に起因する肝発癌および癌進展機序とPKRの役割
Project/Area Number |
15K09006
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
日浅 陽一 愛媛大学, 医学系研究科, 教授 (70314961)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | Protein kinase R / PKR-like ER kinase / hepatitis C virus / hepatocellular carcinoma |
Outline of Annual Research Achievements |
Protein kinase R (PKR)は肝細胞癌の増殖亢進作用を持つことを明らかにしてきた。一方PKR-like endoplasmic reticulum kinase (PERK)はPKRと同様にeIF2-alphaを標的としており、その活性化によりPKRと類似の作用をもつ可能性がある。本研究では肝細胞癌におけるPKRとPERKの相互作用、またHCV感染肝細胞癌株を用いてC型肝炎ウイルス(HCV)感染に伴うPKR活性化とPERK発現への修飾、eIF2-alpha活性化を介した肝細胞癌の細胞増殖への影響、PKRとの相互作用について明らかにする。平成28年度の実績として、肝細胞癌株にPKR siRNAを用いてPKRをノックダウンしたところ、PERK mRNA増加、およびタンパク発現増加が確認された。また、PERKの活性化を表すリン酸化PERKの発現も増加した。一方、PKRとPERKのトータルとしてのeIF2-alpha活性化への影響はあまり変化がみられなかった。HCVは複製の過程で生じる2本鎖RNAにより、PKRが活性化し、さらにeIF2-alphaが活性化して、その結果HCV複製を阻害する方向に作用することがよく知られており、HCV感染時のPKRとPERKの発現および活性化について検討した。その結果、HCV感染によりPKRは活性化した一方で、PERKの発現は低下した。また、両者の下流であるリン酸化eIF2-alphaに発現の変化はみられなかった。これらのことから、PERKはPKRと相補的な作用を持ち、PKRの過剰発現において、PERKの発現が抑制される可能性が示唆された。PKRとPERKが肝細胞におけるHCV感染による生体防御、恒常性維持と、HCVによる炎症性発癌および癌増殖に互いにどのように影響しているのか、さらに詳細な検討が必要である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は肝細胞癌におけるPKRとPERKの発現評価系を確立するとともに、肝癌細胞における両タンパクの発現と相互作用、またHCV感染肝細胞癌株におけるPKRの発現変化とPERK発現への影響、その下流にあるeIF2-alpha活性化への影響について検討を行った。PKR siRNAを用いてPKRをノックダウンした結果、PERKのmRNAおよびタンパク質発現増加がみられた。またPERKの活性化を表すリン酸化PERKの発現も増加していた。一方、PKRとPERKにより活性化されるeIF2-alphaについては、その活性化を表すリン酸化eIF2-alphaの発現はPKRノックダウンによっても変化がみられなかった。このことからPERKはPKRと相補的に働き、PKRノックダウン時には活性化してeIF2-alphaの作用を保持している可能性が考えられた。あるいは逆に、PKRがPERKを抑制している可能性がある。 HCVは複製の過程で生じる2本鎖RNAにより、PKRが活性化し、さらにeIF2-alphaが活性化して、その結果HCV複製を阻害する方向に作用することがよく知られている。HCV発現によってPKRおよびPERKの活性がどのように変化するかについて検討するため、JFH1をHuh7.5.1に感染させたHCV複製肝細胞癌株を用いて追加検討を行った。その結果、HCV感染により、PERKおよびリン酸化PERKの発現は低下した。PERKは小胞体ストレス応答のシグナルであり、HCV感染自体が小胞体ストレスを惹起することから、PERKは活性化することが想定されたが、PKR活性化により抑制された可能性がある。両者の下流のリン酸化eIF2-alphaには発現の変化は明らかでなく、HCVによるPERKへの直接および間接作用についてさらに検討が必要と思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
申請者はこれまでに肝細胞癌においてPKRはc-Fos, c-Junの発現変化を介して肝癌細胞の増殖を促進していることを示している。しかし、本来PKRの下流にあるeIF2-alphaとこれらの細胞内分子、また肝癌細胞への影響については不明である。本年度の研究成果から、PKRのPERKへの抑制作用、あるいは相補作用が、肝癌細胞に最終的にどのような影響を与えるかについて、PKR過剰発現時の応答、PERKノックダウンおよび過剰発現の際のPKRの活性、下流のeIF2-alpha活性化能など、さらに詳細な検討が必要である。また、HCV感染時において、ウイルスによる小胞体ストレスよりもPKRによる影響からか、PERKが抑制されていることは興味深い。これらの応答はウイルス感染初期と後期で異なっている可能性があり、HCVが初感染後に持続感染を獲得する機序にもつながっている可能性がある。さらにPERKは細胞内で、オートファジー、アポトーシスにも関わっていることが報告されつつあり、肝細胞の恒常性維持、癌化、癌細胞増殖に下っていると考えられる。今後、PKR、PERKを介した肝細胞機能、HCV感染防御機能、および発癌と癌細胞増殖への影響について、さらに検討する予定である。さらに当初予定していた、感染時の応答機序の一つとされるインフラマソームとその機能への影響についても観察していく予定である。
|
Research Products
(14 results)