2016 Fiscal Year Research-status Report
C型肝炎の病態増悪に関わる腸内細菌叢由来因子の同定
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15K09015
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
井上 貴子 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (00431700)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 腸内細菌叢 / C型肝炎ウイルス / 次世代シーケンサー / メタボローム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、C型慢性肝炎の病態進展度による腸内細菌叢の特徴を明らかにし、腸内細菌由来の肝病態増悪因子を同定し、その作用機序を解明することである。本研究期間開始以前に得られた結果から、肝硬変症例と無症候性キャリア症例で腸内細菌叢構成菌種の相違が見いだされた。 本年度は1.健常人とHCV感染者の腸内細菌叢の比較、2.HCV感染者で顕著に見られる腸内細菌の病原性の解明に向けた計画立案、を行った。 1.健常人とHCV感染者の腸内細菌叢の比較:HCV感染者は名古屋市立大学病院および研究協力機関に通院中のC型慢性肝疾患患者で、糞便提供に同意し、書面で同意書を提出した患者を対象とした。健常人は研究協力機関に書面で同意書を提出したボランティアである。糞便から腸内細菌ゲノムDNAを抽出し、細菌ゲノムDNAを鋳型に16S ribosomal RNA遺伝子を網羅的に増幅させるPCRを行った。その後研究協力機関で、次世代型超高速DNA シーケンサーIllumina MiSeq 2000を用いて塩基配列を決定した。得られた塩基配列は菌叢データに変換し、比較解析に用いた。細菌叢データを統計学的に解析した結果、健常人と無症候性キャリア間での腸内細菌叢の違い、C型慢性肝疾患の病態進展につれて変化する菌種を同定した。当初はHCV感染者の腸内細菌叢のみを研究対象としたが、健常人も含めて解析を行った。 2.HCV感染者で顕著に見られる腸内細菌の特徴の解明: HCV感染者では糞便のpHが上昇しており、アンモニア産生菌との関係が示唆された。統計解析の結果、糞便pHが高い患者では有意にアンモニア産生菌が増加していることが証明された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに健常人と肝病態進展度の異なるHCV感染症例の腸内細菌叢を比較し、HCV感染者で顕著に見られる腸内細菌の特徴の解明を行った。 1.健常人と肝病態進展度の異なるHCV感染症例の腸内細菌叢比較: HCV感染症例で糞便提供に同意した患者166例(肝硬変61例うち肝癌合併21例、慢性肝炎87例うち肝癌合併3例、無症候性キャリア18例)を対象とした。名古屋市立大学で腸内細菌ゲノムDNAを抽出し、細菌ゲノムDNAを鋳型に16S ribosomal RNA遺伝子を網羅的に増幅させるPCRを行った。研究協力機関に同意書を提出して糞便提供に応じた健常者は24名で、同様に腸内細菌ゲノムDNAを抽出してPCRを行った。研究協力機関で次世代型超高速DNA シーケンサーを用いて腸内細菌叢の塩基配列を決定し、得られた塩基配列を菌叢データに変換し比較解析を行った。統計学的検討の結果、C型慢性肝疾患と関連する菌種としてStreptococcus属が同定された。HCV感染症例を肝硬変・慢性肝炎・無症候性キャリアの3病期に分けた比較検討で、Streptococcus属は病態進展に伴って有意に増加していた。また肝線維化の客観的な指標としてFib4-indexを用いた解析では、Fib4-indexの上昇に伴ってStreptococcus属が有意に増加していた。なお、肝癌と関連する菌種は同定されていない。 2.HCV感染者で顕著に見られる腸内細菌の特徴の解明:HCV感染者では糞便のpHが上昇しており、アンモニア産生菌との関係が示唆された。統計解析の結果、糞便pHが高い患者では有意にアンモニア産生菌が増加していることが証明された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後1.HCV感染者で顕著に見られる腸内細菌の病原性の解明、2.C型慢性肝疾患病期診断モデルの作成、3.抗HCV治療前後の腸内細菌叢の変化、4.HCV排除後の肝発がん・インスリン抵抗性と腸内細菌叢との関係を明らかにするための前向き研究、を推進する。期間終了後は腸内細菌を利用した肝硬変の新規治療法の確立、肝疾患病期予測モデル完成と臨床応用へ研究を発展させる。 1.HCV感染者で顕著に見られる腸内細菌の病原性の解明:HCV感染者で糞便pHが高くアンモニア産生菌が増加している症例から、アンモニア産生菌を単離する。動物モデルを作成しアンモニア産生菌を腸内に定着させ、肝病態進展の有無を解明する。 2.C型慢性肝疾患病期診断モデルの作成:腸内細菌叢の特徴からC型慢性肝疾患の病期を予測するモデルを作成する。予測モデルを用いてC型慢性肝疾患症例の病期を予測し、実際の病期との相関を明らかにする。確実なモデルを作成して特許申請を行い、補助診断ツールとしての臨床応用を目指す。 3.抗HCV治療前後の腸内細菌叢の変化:直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)によってHCV排除に至った慢性肝炎・肝硬変症例のウイルス排除前後の腸内細菌叢を比較し、病期によってHCV排除による腸内細菌叢の変化に違いがあるかを明らかにする。HCV排除によって腸内細菌叢が変化した症例と不変の症例の前向き研究を立案し、対象症例の観察を開始する。 4.HCV排除後の肝発がん・インスリン抵抗性と腸内細菌叢との関係:DAAsによりHCVは排除可能となるが、現段階では肝がん発生を阻止することは困難である。またC型慢性肝疾患ではインスリン抵抗性と肝病態進展との関連が報告されている。これらの病態を網羅する前向き研究を立案し、対象症例の観察を開始する。
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Causes of Carryover |
糞便メタボローム解析への支出が次年度に繰越となった。HCV感染者で糞便pHが高い症例では、便中のアンモニア産生菌が増加していることが証明された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後動物モデルを作成し、アンモニア産生菌を腸内に定着させ、肝病態進展の有無を解明する。またすでにパイロットスタディとして得られた糞便メタボローム解析の結果を判断し、C型慢性肝疾患病態増悪につながる腸内細菌代謝産物を同定する。現在HPLCを用いた解析を行っているが、困難な場合は解析サンプルの追加、別の分離・同定システムへの変更を行う。CE-TOF MS(キャピラリー電気泳動+飛行時間型質量分析)は理論上HPLCよりも分離能がよくGC(ガスクロマトグラフィ)より広範囲の化合物を検出できるため、同システムへの変更も検討する。 メタボローム解析と並行して肝疾患病期予測モデルを完成させ、便サンプルから肝組織の炎症や肝線維化の程度を経時的に比較する実験を計画する予定である。
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