2015 Fiscal Year Research-status Report
B型肝炎ウイルスのHBs抗原が関与する肝発癌機序の解明に関する研究
Project/Area Number |
15K09033
|
Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
加藤 孝宣 国立感染症研究所, その他部局等, 室長 (20333370)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | B型肝炎 / HBs抗原 / プロモーター |
Outline of Annual Research Achievements |
国内の急性B型肝炎症例から得られたHBVゲノムのs抗原領域の塩基配列を用い、これらの株のHBs抗原を発現するベクターを作製した。これらの発現ベクターをHepG2細胞に導入し、培養上清中と細胞内のHBs抗原量を測定したところ、株により培養細胞内と上清中のHBs抗原の発現比率が異なりHBs抗原量に比べ上清中のHBs抗原量が低いものでは、培養細胞内にHBs抗原が蓄積しているものと考えられた。そこで、これらのHBV株のs抗原領域の配列を比較し、HBs抗原の細胞内蓄積に影響を与える配列について検討を行ったが、特徴的なアミノ酸配列は同定されなかった。 そこで、さらにHBsのプロモーター領域の塩基配列について検討を行った。HBs抗原の細胞内蓄積を認めるHBV株について、その全長遺伝子配列について検討したところ、pre-Sプロモーター領域に特徴的な変異(T2768G、T2552G)を認めた。そこで、これらの変異をHBs抗原発現ベクターに挿入し、 HBs抗原の発現状態を解析した。その結果、プロモーター領域へのT2552Gの変異の挿入ではHBs抗原の発現に影響を与えなかったが、T2768Gの変異の挿入によりHBs抗原の細胞内への蓄積が観察された。以上の結果から、HBs抗原の細胞内蓄積には HBs領域のアミノ酸配列ではなく、プロモーター領域の変異が関与している可能性があると考えられた。 今後はHBs抗原の発現を M, L, SそれぞれのHBs抗原ごとに解析し、これらのHBs抗原のプロモーターの変異が細胞内蓄積と分布に与える影響の解析を行う。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定ではHBs領域内でHBs抗原の蓄積と細胞内局在に影響を与える変異を同定し、それらの変異の中で肝発癌に影響するものを同定する予定であった。しかし、細胞内蓄積をきたすHBs抗原の配列には特徴的な変異は同定されなかった。本年度の検討によりHBs抗原の細胞内蓄積はHBs領域よりもむしろプロモーターの配列に影響されることが明らかとなり、その原因のひとつとなる変異が同定された。今後、同様にHBs抗原の細胞内蓄積をきたすHBV株を解析することにより、HBs抗原の局在に影響を与えるプロモーター領域を決定し関与している変異の同定を目指す。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで肝癌症例から得られたHBV株配列ではpre-S1領域、pre-S2領域の欠失や開始コドンの変異などが多く報告されている。しかしプロモーター配列の変異については報告されていない。本研究で同定されたプロモーター領域の変異についてもこれまで報告された肝癌症例由来HBV株で確認したところ、少数の株でこの座位の変異が確認されたのみであった。この結果は他にもHBs抗原の細胞内蓄積に関与している変異などが存在している可能性を示すものであり、今後そのような変異を同定すべく検討を進めていく。その一方でこれまでに指摘されているpre-S1領域、pre-S2領域の欠失や開始コドンの変異などによってHBs抗原の蓄積や細胞内局在が影響を受ける可能性もあり、その点についても検討を行なう予定である。
|
Causes of Carryover |
年度末納品等にかかる支払いが平成28年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成27年度分についてはほぼ使用済みである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のとおり。
|