2015 Fiscal Year Research-status Report
ナトリウム利尿ペプチド低反応性とインスリン抵抗性および虚血性心疾患との関連
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15K09102
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
吉村 道博 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30264295)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 臨床心臓学 / 心不全 / ナトリウム利尿ペプチド / 糖尿病 / インスリン抵抗性 |
Outline of Annual Research Achievements |
不全心ではBNPが分泌され、多彩な作用を発揮している。最近、BNPはエネルギー代謝にも関与すると考えられるようになったが、詳細は未だ不明である。特に脂肪細胞におけるBNPの作用はエネルギー代謝の面から臨床的にも重要である。一方で、高度肥満者ではBNP分泌が抑制されていると考えられている。我々は、BNPとエネルギー代謝の関係を臨床と基礎の双方から検討している。 臨床研究としては、心臓カテーテル検査を実施した症例群を用いて、心不全の程度・肥満度・インスリン抵抗性(IR)・糖尿病・虚血性心疾患などを総合的に捉えて種々の解析を行っており、以下にその成果の一つを記す。 一般的に心不全と糖尿病はその進展過程でお互いが悪影響を及ぼしていると考えられている。しかし、両者の同時期での関係についての報告は少ない。本研究では、BNPとIRの関連性を加味して心不全と糖尿病の関係を調べた。心臓カテーテル検査を行った840症例を用いて解析した。単回帰分析でHbA1cは心係数と負の相関関係にあったが、左心拡張末期圧(LVEDP)とは有意な関係を認めなかった。寧ろBNPと負の相関を示した。多変量解析では、HbA1cはLVEDPおよびBNPと有意な相関は示さなかった。HbA1cの上昇は、BNPとIRの潜在的な負の関係で抑えられていると想定して次の多変量解析を行った。BNPは年齢、クレアチニン、LVEDPと正の相関を示し、男性、BMIそしてHOMA-IRと負の相関を示した。一方、HbA1cとは有意な関係は認めなかった。糖尿病と心不全は相互に悪化すると思われるが、BNPのIR改善作用は強く、その関係性は薄められている。心不全および糖尿病は、長期間でみると相互に悪化させる傾向にあると思われるが、脂肪におけるBNPのインスリン抵抗性改善作用が、その悪循環を部分的に弱めている可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、心不全時に分泌亢進するBNPと各種疾患との関係性を検討している。具体的には、肥満との関わり・心不全の進展との関連・虚血性心疾患(HD)の発症との関わり・糖代謝(HbA1cやインスリン抵抗性)との関連などである。 これまでに我々は、肥満におけるBNP値は低下していること、さらに慢性の虚血性心疾患ではBNP濃度が低下していること、そして最近、糖尿病と心不全の進展にBNPが関与していることなどを報告した。BNPは心不全の代償機構として分泌されるが、それ以外にも様々な病態に絡んでおり、さらにはその分泌の程度には個人差がありBNP低反応を示すことも示唆されている。今後さらに詳細に臨床と基礎の両面からBNPと各種疾患の関係性を検討する予定である。 臨床研究の手法として、症例データベースの構築を進めており、現在順調にデータが蓄積されている。これらの症例群は全例で心臓カテーテル検査を行っており、血行動態を含めた各種の情報が含まれる。本研究から既に糖尿病と心不全にBNPが影響をおよぼしているという報告をしているが、このデータベースをさらに用いて複数の解析を計画している。 この目的の為には高度な統計学的手法が要求されるであろう。特にIHDの発症にBNP低反応性が如何に関与しているかを考察したいと考えているが、BNP値やIHD発症に影響を与える臨床的因子は、肥満の他にも心機能・腎機能・年齢など数多くあり、両者の関連性を調べるにはかなり複雑な統計処理が必要であろう。現在、その準備を進めている。 BNPおよびA型ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は、ナトリウム利尿作用・血管拡張作用・RAA系抑制作用などが明らかになっているが、さらに脂肪細胞におけるエネルギー代謝および熱産生への関与の可能性も示唆されており、それを基礎的に検討する予定であり、各種細胞培養の準備が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
BNP低反応性と疾患との関わり合い、そしてBNPのエネルギー代謝への関与を臨床的、基礎的に検討する。 臨床的には、BNPと肥満との関係をさらに詳細に検討する。肥満はBNP濃度を抑制する作用があるが、その力の程度に関しては未だ過小評価されていると思われる。なぜならば、心不全が重度になると水貯留によって体重増加が起こるが、元々の脂肪による体重と重なり合うことで、多くの場合、真の肥満とBNPの関係は見え難くなっている。水貯留は心負荷となりBNP分泌を亢進させるので肥満と水貯留のBNPへの影響は逆となるからである。今後、BNPのエネルギー代謝を詳細に詰めていく上では、この課題に取り組む必要がある。次に、肥満を上流において、肥満に伴う代謝異常(脂質異常症、糖尿病、高血圧など)とともにBNPが如何なる意味を持つのか、つまりメタボリック症候群(Mets)がIHDの発症に関与する際にBNPが如何に介入しているのかを解析する。臨床研究を進めるにあたっては、高度な統計学的手法が必要であり、現在、共分散構造分析を用いた解析を想定している。 基礎研究では、BNPのエネルギー代謝におよぼす作用に関して検討を進める。肥満はBNPの発現を抑制するが、一方でBNPは特に脂肪細胞でのエネルギー代謝を亢進させる可能性が高い。BNPあるいはANPの脂肪細胞での作用に関してはミトコンドリア機能の変化を詳細に検討する予定である。エネルギー産生と熱産生が如何に変化するかを検討する。まずは褐色脂肪細胞で検討を行い、続けて白色脂肪細胞での検討を進める。また、BNPの分泌を抑制する因子として脂肪酸は強いと思われるが、他の抑制因子も検討したいと考えている。特に各種ステロイドに対するBNPの反応性に関してその可能性を探る。この検討を通してBNPの低反応性の原因を探る。
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