2016 Fiscal Year Research-status Report
ナトリウム利尿ペプチド低反応性とインスリン抵抗性および虚血性心疾患との関連
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15K09102
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
吉村 道博 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30264295)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 臨床心臓学 / 心不全 / ナトリウム利尿ペプチド / 糖尿病 / 肥満 |
Outline of Annual Research Achievements |
不全心筋から分泌されるナトリウム利尿ペプチド(ANP,BNP)は、最近ではエネルギー代謝にも関与すると考えられるようになったが、詳細は不明である。特に、脂肪細胞とBNPの関係は臨床的にも重要と思われ、詳細な検討を要する。 我々は、急性心不全の治療前後 (Pre, Post)の2点で、Body Mass Index(BMI)と血漿BNP濃度を測定することで急性心不全時における血漿BNP濃度の反応性に対する肥満の影響を検討した。当院に入院した急性心不全症例372例を対象に治療前後のBMIならびに血漿BNP濃度などの血液生化学検査を用いて多変量解析ならびに共分散構造分析を用いたパス解析を行った。結果、単回帰分析では治療前後にてBMIと血漿BNP濃度それぞれに逆相関を認めた。また多変量解析ではpre-BMIはlog pre-BNPに対して独立した負の相関を認め、別の多変量解析ではpost-BMIはlog-post BNPに対して独立して負の相関を認めた。しかしpre-BMIとpos-BMIは明らかな交絡因子であり、同時に多変量解析を行うことは困難であると思われ、共分散構造分析に基づくパス解析を行った。その結果、log pre-BNPに対してpre-BMIは正の相関、post-BMIは負の相関を認めた。pre-BMIは肥満の要素に加えて体液貯留の要素が含まれているのに対してpost-BMIは真の肥満を反映していると思われ、真の肥満が急性期の血漿BNP濃度の上昇を抑制することが示された。結論として、急性心不全時における血漿BNP濃度の上昇は肥満により強く抑制されることが示された。本現象は、血漿BNP濃度とエネルギー代謝の密接な関係の存在を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、心不全時に分泌亢進するBNPの多彩な作用に注目し、その意義を様々な角度から検討している。具体的には、BNPと肥満との関係、BNPと糖代謝の関係、BNPと虚血性心疾患との関係などを報告している。 臨床研究として、症例データベースの構築を行っている。現在、順調に3000例を超えるデータが蓄積されている。これらの症例群は全例で心臓カテーテル検査を行っており、血行動態を含めた各種の情報が含まれる。このデータベースを用いてさらに研究を進展させる予定である。一方で、その解析に関しては、高度な統計学的手法が要求される。従来の多変量解析などの手法に留まることなく、新しい手法を積極的に取り入れる必要がある。我々の研究の目的の一つは、虚血性心疾患の発症土壌として、肥満などでもたらされるBNP低反応性の存在を探ることである。しかし、血漿BNP濃度や虚血性心疾患の発症に影響を与える臨床的因子には、年齢、性別、心機能、腎機能、肥満度など様々であり、両者の関連性を調べるにはかなり複雑な統計処理が必要となる。我々はこの課題に共分散構造分析(Covariance Structure AnalysisまたはStructure Equation Modeling: SEM)を用いて挑んでいる。この解析手法の特長を最大限に利用してBNPの各種病態における位置づけを探求する試みを始めている。 基礎研究からも我々はアプローチしている。ANP・BNPは、ナトリウム利尿作用、血管拡張作用、RAA系抑制作用などが明らかになっているが、さらに脂肪細胞におけるエネルギー代謝および熱産生への関与の可能性も示唆されており、それを各種の細胞培養実験を用いて検討を始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
肥満などでもたらされるBNP低反応性と各種疾患との関わり合い、そしてBNPのエネルギー代謝への関与を臨床的および基礎的に検討する。 臨床的には、データベースの構築をさらに進める。症例数の確保のみならず、データの精度の向上、さらに臨床項目を増やすことで多彩な解析目的に耐え得るデータベースを目指す。その解析には、共分散構造分析がその中心をなす。臨床的に有用で、かつ理論的な構造を有するパス図を考案することが必須であるが、我々は既に複数の目的に適ったパス図の作成に成功しており、現在、BNPの各種疾患における位置づけを表す計算に取り組んでいる。 臨床研究のみならず基礎研究も着実に進める予定である。BNPのエネルギー代謝におよぼす作用に関して検討を進める予定である。肥満はBNPの発現を抑制するが、一方でBNPは特に脂肪細胞でのエネルギー代謝を亢進させる可能性が高い。BNPあるいはANPの脂肪細胞での作用に関してはミトコンドリア機能の変化を詳細に検討する予定であり、既に着手している。エネルギー産生と熱産生が如何に変化するかを検討する予定である。まずは褐色脂肪細胞で検討を行い、続けて白色脂肪細胞での検討を進める。また、ランゲンドルフ灌流心実験法を用いて、糖代謝とANP, BNPの関係を探っており、これも検討を開始している。このように基礎研究では、ANP, BNPの脂肪酸および糖代謝への関与の可能性を探る予定である。
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