2015 Fiscal Year Research-status Report
慢性心不全における貧血と炎症に交感神経と酸化ストレスは関与するか
Project/Area Number |
15K09148
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Research Institution | Hyogo University of Health Sciences |
Principal Investigator |
辻野 健 兵庫医療大学, 薬学部, 教授 (90283887)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内藤 由朗 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (10446049)
増山 理 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (70273670)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 慢性心不全 / 貧血 / 炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性心不全患者にはしばしば貧血・好中球の増加・リンパ球の減少を合併し、それは予後不良のサインとなる。これらの骨髄異常の発症機序を明らかにするために、食塩負荷により貧血と好中球増加・リンパ球減少を伴う慢性心不全を発症するDahl食塩感受性高血圧(DS)ラットの血球異常の機序を解明するために実験を行った。まず造血幹細胞はニッチの主体をなすCAR (CXCL12-abundant reticular) 細胞の異常について検討した。CAR細胞は造血幹細胞の維持に必須であるケモカインCXCL12を分泌する。CAR細胞を欠損させると貧血とB細胞の減少が見られることが知られている。しかし骨髄におけるCXCL12のmRNAの発現は低下していたが、蛋白レベルでの低下は見られなかった。故にこれが貧血やリンパ球減少の原因ではない様であった。むしろ血中エリスロポエチン濃度の増加に伴い、骨髄ではHIS49陽性の赤芽球系細胞が増加しており、造血機能の低下が貧血とは考えにくい結果であった。次に、DSラットのおける赤血球の半減期について検討した。すなわち、14週齢でSulfo-N-hydroxysuccinimide-biotin (膜表面のタンパク質に結合しビオチン化する試薬)を静注し、赤血球をラベリングし、その後3~4日毎に採血し、antistreptavidin-FITC antibodyを用いてラベルされた赤血球をフローサイトメーターでカウントし、赤血球の半減期を求めたところ、貧血を呈するDSラットでは短縮していた。また、eryptosis (赤血球のapotosis様変化)をAnnexin-V-FITCで検討したところ、DSラットではeryptosisの増加が見られた。eryptosisの増加も貧血と関連していた。このことから、eryptosisが赤血球半減期の短縮の原因であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
慢性心不全患者の貧血は予後不良のサインなので、それらは治療のターゲットと考えられた。しかしエリスロポエチンを用いて貧血を治療する試みは有効性を示すことはできなかった。慢性心不全患者には好中球増加・リンパ球減少も見られ、それも予後不良のマーカーとなる。そこで貧血と白血球異常を骨髄異常としてその発症機序を統一的に明らかにし、より上流に介入することにより、新たなる展開が期待できると考え、食塩負荷により貧血と好中球増加・リンパ球減少を伴う慢性心不全を発症するDahl食塩感受性高血圧(DS)ラットの血球異常の機序を解明するために実験を行った。DSラットにおいて、当初想定していたCAR細胞の異常はなさそうである。むしろエリスロポエチンの上昇に反応して骨髄における造血は亢進しており、骨髄異常が貧血の最初の原因とは考えにくい状況であり、当初の仮説は成り立たないと考えられた。しかし、貧血の原因として新たに赤血球半減期の短縮を同定できたことは大きな成果であった。赤血球の破壊に伴い遊離ヘモグロビンが生じ、それが酸化ストレス、NOの消去、Toll-like receptorの活性化を通じて炎症を生じ、それが病態の悪化をきたしているという新たな仮説を立てることができたのは大きな進歩と考えられた。故に当初の仮説は修正を余儀なくされ、研究手法の変更は必要であるが、慢性心不全患者の血球異常について統一的に理解するという目的については着実に前進しており、本研究課題は順調に進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回のDSラットの実験から得られた結果はヒトの慢性心不全モデルから得られたデータと一致する。すなわち慢性心不全患者では網状赤血球が増加し造血能の亢進が示唆されている。またエリスロポエチンの血中濃度が高いほど予後が悪いことも知られている。よってDSラットにおける赤血球破壊亢進の機序と、赤血球破壊が臓器障害進展に果たす役割について研究を推進していくことはヒトの慢性心不全患者の病態を解明する上で有用なことだと判断される。そこで、赤血球の半減期の短縮の機序として、血管内皮機能異常、レニン・アンジオテンシン系の亢進、交感神経系の亢進などの関与について検討していきたい。また赤血球破壊が臓器障害の進展にどのように寄与しているかについては、まず血漿中の遊離ヘムや遊離ヘモグロビンを測定したい。ヘモグロビンは赤血球内では4量体であるが、赤血球外に漏出した遊離ヘモグロビンは2量体になり、糸球体で濾過され、近位尿細管でメガリンに捕捉され取り込まれる。そこで腎臓でのヘモグロビンや鉄の沈着について検討する。また遊離ヘムや遊離ヘモグロビンはヘモペキシンやハプトグロビンによって捕捉され肝臓や脾臓で処理される。ヘモペキシンやハプトグロビンの血中濃度や肝臓でのmRNA量などを検討し、赤血球破壊により遊離されたヘモグロビンを生体が処理し切れているのかどうかを評価する。さらに、もしハプトグロビン血中濃度の低下が見られた場合、DSラットにハプトグロビンを投与し、DSラットの臓器障害の進展を予防することができるかどうかも検討したい。以上のような検討を通じて、赤血球破壊亢進の慢性心不全における意義を明らかにしたい。
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