2016 Fiscal Year Research-status Report
COPDの発症機序:SASPからみた肺線維症との相違点
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15K09193
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Research Institution | Tokyo Medical University |
Principal Investigator |
青柴 和徹 東京医科大学, 医学部, 教授 (60231776)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | COPD / 特発性肺線維症 / 細胞老化 / 低酸素 / carbonic anhydrase IX |
Outline of Annual Research Achievements |
老化関連疾患である肺気腫と肺線維症との相違点を細胞老化とsenescence-associated phenotype(SASP)の観点から明らかにするために、肺癌手術時に採取されたCOPD (肺気腫)、特発性肺線維症、膠原病関連間質性肺炎、気腫合併肺線維症および対照患者のパラフィン包埋肺組織から薄切切片を作成し、免疫組織染色を行った。昨年度の研究においては特発性肺線維症ではCOPDに比べて細胞老化 (抗p16、p21抗体陽性細胞数)が促進していること、また特発性肺線維症とCOPDのいずれにおいても老化細胞ではSASPが生じていること(phospho-NF-kB陽性率)が示されたが、今年度の研究においては、特発性肺線維症においては低酸素刺激で発現するcarbonic anhydrase IX (CA IX) 陽性の上皮細胞および間質細胞が多数認められた。CA IX陽性細胞は、COPDや健常肺組織では認められず、肺の線維化の成因に特異的に関与している可能性が考えられたため、既存のブレオマイシン肺線維症マウスモデルの肺組織を用いて検討したところ、ヒトの特発性肺線維症と同様に間葉系細胞および一部の上皮細胞にCA IXの発現が認められた。そこでさらにCA IX阻害薬であるU-104をマウスの腹腔内に投与したところ、ブレオマイシンによる肺線維化のマーカーである肺ヒドロキシプロリンの減少と肺機能(エラスタンス、コンプライアンス、組織エラスタンス)の改善が観察された。以上の結果から、肺気腫と特発性肺線維症の相違点として肺線維症における低酸素刺激による細胞の活性化が考えられ、特にCA IXが肺線維症に対する治療標的になる可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果として、特発性肺線維症の肺組織では上皮細胞と間葉系細胞にcarbonic anhydrase IX (CA IX)の発現を認めた。CA IXの発現はCOPD(肺気腫)や健常肺組織では認められなかった。この結果は研究当初には予期していなかったことであるが、ブレオマイシン肺線維症モデルでもCA IXの発現が観察されたこと、さらにCA IX阻害薬によりブレオマイシン肺線維症が抑制されたことから、肺線維症の発症機序に低酸素によるCA IXの発現が関与している可能性が考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
CA IX阻害薬は肺線維症の新しい治療薬となる可能性があることが知られた。今後の研究としては、2重染色により特発性肺線維症の肺組織におけるCA IX細胞の同定を行いたい。さらに科研費以外の研究費の補助も受けて間葉系細胞培養系における低酸素またはTGF-β刺激によるCA IXの発現とその阻害による間葉系細胞の不活化(筋線維芽細胞の分化抑制やコラーゲン産生の抑制)の可能性について明らかにしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初予期していなかった肺線維症におけるcarbonic anhydrase IXの発現が認められ、購入した抗体の種類と量が変更になったために次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の実験計画の通り、ヒト肺組織を用いた免疫組織学的な検討を進めるが、併せて既存のブレオマイシンモデルの肺組織についても同様な免疫組織学的な調査を行いたい。さらにin vivoで得られた研究結果を補強するために肺線維芽細胞を用いたCA IX阻害薬の影響をin vitroで研究することにより、治療薬としてのCA IX阻害薬の役割をぜひ明らかにしたい。研究経費は当初の予定通り、抗体や試薬などの消耗品購入の費用に充当させることに変わりはない。
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