2016 Fiscal Year Research-status Report
悪性胸膜中皮腫に対する癌幹細胞を標的とした新規治療法の開発
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15K09200
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
福岡 和也 近畿大学, 医学部附属病院, 教授 (80305721)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西尾 和人 近畿大学, 医学部, 教授 (10208134)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 悪性胸膜中皮腫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、悪性胸膜中皮腫から癌幹細胞を単離・同定し、その遺伝子発現プロファイルを明らかにすることで治療応用に繋げることを目的とする。悪性胸膜中皮腫にみられる癌抑制遺伝子NF-2の不活化によって、遺伝子産物であるMerlinの発現が低下すると、その下流シグナル分子である焦点接着キナーゼ (FAK)の活性が上昇する。FAKは癌幹細胞の増殖と生存に必須のシグナル伝達経路であることから、FAKを制御することで癌を治癒に導くことができる可能性がある。最近、悪性胸膜中皮腫を対象としたFAK阻害剤の国際共同治験が実施されたが、標的となる癌幹細胞の遺伝子変異プロファイルやマーカー分子は明らかにはされていない。 平成27年度は、ヒト悪性胸膜中皮腫細胞における抗癌剤感受性に関連する遺伝子変異、治療標的となり得る遺伝子変異、疾患特異的な遺伝子変異パターンを探索するために、次世代シーケンサーを用いた遺伝子変異及び融合遺伝子解析を実施した。 平成28年度は、悪性胸膜中皮腫13例の胸膜腫瘍検体について、同様の方法にて遺伝子発現解析を行った。融合遺伝子は検出されなかったが、BRCA1-associated protein 1 (BAP1)遺伝子のmissense mutationが、13例中5例 (38%)に検出された。この結果は、これまでの報告と概ね一致するものであった。さらに、breast cancer susceptibility gene 2 (BRCA2)遺伝子及び結節性硬化症の原因遺伝子であるTSC1遺伝子の変異が新たに検出された。悪性胸膜中皮腫におけるこれら2つの遺伝子変異の機能的意義については不明であるため、機能解析を検討している。 本研究を継続することによって、悪性胸膜中皮腫に対する癌幹細胞や新規の分子を標的とした新しい治療法の開発が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、悪性胸膜中皮腫における抗癌剤感受性と関連する遺伝子異常、治療標的となり得る遺伝子異常、疾患特異的な遺伝子変異パターンを探索するために、次世代シーケンサーを用いた遺伝子変異及び融合遺伝子解析を実施した。 平成28年度は、広島大学病院呼吸器外科において採取された悪性胸膜中皮腫13例の胸膜腫瘍検体についての遺伝子発現解析を行った。次世代シーケンスは、ライフテクノロジーズ社のIonProtonを用いて、Oncomine Comprehensive Assayによる遺伝子変異・融合遺伝子の解析を実施した。同パネルによる解析結果から、融合遺伝子は検出されなかったが、BAP1遺伝子のmissense mutationが、13例中5例 (38%)に検出された。この結果は、これまでの報告と概ね一致するものであった。また、BRCA2の遺伝子変異が、新たに検出された。変異アレル頻度等より、同変異は体細胞変異であると推察された。BRCA1及び2遺伝子変異は、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群において高率に認められるが、悪性胸膜中皮腫における報告は過去には無く、新しい知見と考えられた。同変異陽性腫瘍に対するPARP阻害薬の感受性亢進も期待されるが、同変異の機能的意義については不明であるため、機能解析を検討している。さらに、結節性硬化症の原因遺伝子であるTSC1遺伝子の変異も検出された。同変異陽性腫瘍においては、mTORが活性化し、エベロリムス等のmTOR阻害薬に対する感受性亢進の可能性もあることから、機能解析を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析の結果、悪性胸膜中皮腫細胞株に見出された癌幹細胞関連遺伝子変異及び癌関連遺伝子変異を既報告のデータベースと比較することによって、新規の遺伝子変異及び疾患特異的遺伝子変異を同定する。さらに、これまでに同定した悪性胸膜中皮腫における新たな遺伝子変異に関しては、機能解析を試みることによって、これらの遺伝子変異が新しい治療標的となり得るか否かを検証する。 また、細胞株を用いた検討と同様、診断時に得られた胸膜生検組織(生検腫瘍検体)及びCDDP+PEMもしくは、CDDP+GEMによる導入化学療法後の胸膜切除組織(手術腫瘍検体)を用いて、悪性胸膜中皮腫における抗癌剤感受性に関連する遺伝子変異、治療標的となり得る遺伝子変異、疾患特異的な遺伝子変異パターンを探索する。さらに、細胞レベルで同定した癌幹細胞の遺伝子発現プロファイル及び、その検出に有効なマーカー分子を用いて、悪性胸膜中皮腫の増殖・進展及び薬剤耐性に関わる癌幹細胞の役割を明らかにする。
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Causes of Carryover |
遺伝子変異解析に用いた試薬代金が、当初の見積もりよりも安価となったため、次年度使用額が生じました。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
臨床検体における遺伝子変異解析および、その遺伝子変異の機能解析の試薬購入に使用する予定です。
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