2015 Fiscal Year Research-status Report
グルコース感知受容体の機能解明:グルコース作用の新たな理解にむけて
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15K09375
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
中川 祐子 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (90422500)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グルコース / インスリン |
Outline of Annual Research Achievements |
インスリン分泌を調節する最も重要な因子はグルコースで、その作用機構に関してはこれまで多くの研究がなされてきた。その中で申請者は膵β細胞のセカンドメッセンジャーの動態を可視化する測定系を確立し、その鋭敏な測定系を用いてグルコース応答性のシグナル伝達機構を解析してきた。その結果、以下のような特筆すべき結果を得た。膵β細胞の培養細胞株であるMIN6細胞においてグルコース刺激わずか数秒以内に細胞内Ca2+およびcAMPの上昇、ジアシルグリセロール(DAG)の産生亢進またプロテインキナーゼC(PKC)によるリン酸化の増強が惹起された。この素早い応答は従来知られているグルコースの代謝を介した応答とは異なり、代謝阻害剤存在下においても抑制されず、非代謝性のグルコースアナログでも再現できた。したがって一連の素早い応答は「グルコース代謝非依存的な応答」であることが考えられる。また、これらのシグナル応答の一部はGタンパク質共役受容体(GPCR)であるTaste receptor type 1 member 3(T1R3)を介していることが明らかとなった。T1R3 knockout(T1R3ko)マウスより単離したβ細胞での検討結果、グルコース応答性Ca2+上昇が抑制されることが分かった。またマウスの膵灌流実験においてT1R3の阻害剤グルマリンによりグルコース応答性インスリン分泌の第一相目ばかりでなく、第二相目も抑制することが明らかになった。またMIN6細胞の検討からグルコースによりグルコース感知受容体を活性化させるとATP産生が促進されることも分かった(Endocr. J., 61: 2, 2014)。このようにT1R3はグルコースを感知する受容体であることから、以降 T1R3をグルコース感知受容体として検討を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
膵β細胞においてグルコースは、Glut2を介して細胞内に流入する経路の他に、グルコース感知受容体を介して多様なシグナルを発生させ、代謝を促進し、ATP産生量を増強させ、最終的にインスリン分泌を促す。申請者は新規のグルコース応答性インスリン分泌の制御機構の解明を目指し、T1R3koを用いて、グルコース感知受容体より発生するシグナルの全貌を明らかにし、グルコース感知受容体と共役するGタンパク質およびその下流因子の特定を行い、グルコース感知受容体を介して促進するATP産生メカニズムの解明を目的として研究を進めてきた。その結果、T1R3koマウスの単離β細胞において、グルコース応答性のCa2+およびcAMPの上昇が抑制されることを明らかにした。興味あることに野生型マウスの単離β細胞では観察されたグルコース刺激直後の素早いCa2+応答がT1R3koマウスでは完全に消失した。この結果は、グルコースに対する素早い応答にT1R3が関与することを示唆する。グルコース感知受容体を介したATP産生メカニズムを明らかにするために薬理学的な検討を行った。その結果、この産生経路にはCa2+依存経路とCa2+非依存経路が存在することが分かった。現在、更なる詳細な検討を行い、この経路に関わる因子の特定を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、グルコース受容体と共役して働くGタンパク質共役受容体の同定および下流因子の特定を行う。T1R3を介して惹起されるシグナルを特定した後、下流のシグナル因子の特定を行う。前述のようにT1R3はGPCRである。そのため、共役して働くGタンパク質の特定を行う。HEK293細胞にT1R3を単独で発現させた検討では、T1R3アゴニストによりcAMPの上昇が観察された(PLoS One, 8: e54500, 2013)。そのためGsの関与が予想される。そこで本研究では、この経路にGsが関与しているか否か、Gs siRNAの導入によりcAMPシグナルが消失するか検討する。また、MIN6細胞を用いてT1R3を介して上昇するcAMPがPKA依存経路またEpac2依存経路の活性に関与するか検討を行う。これまでの検討から、グルコース感知受容体の特徴として、様々なシグナルを発生させることがあげられる。HEK293細胞にT1R3を単独で発現させた検討ではcAMPと同様にCa2+上昇も観察された。そのためGqの関与が考えられる。本研究では薬理学的な検討により、Gqが関与しているか否か明らかにする。最後にT1R3がどのように多様なシグナルを発生させるのか、T1R3および検討により特定された因子を用いてBRET法およびdualink法を行い、分子制御機構を明らかにする。
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