2016 Fiscal Year Research-status Report
グルコース感知受容体の機能解明:グルコース作用の新たな理解にむけて
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15K09375
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
中川 祐子 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (90422500)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グルコース / 受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、グルコース感知受容体に関する検討を行い、2報の論文を報告することができた。一つは、グルコース感知受容体の候補遺伝子であるT1R3を介した細胞内ATP産生のメカニズムについてである(Li, L., et al., Endocr. J., 2016)。T1R3はスクラロースによって活性化され、グルコース代謝の賦活化することが分かっているが、どのようなシグナル伝達を介するかは不明であった。今回の検討により、スクラロースによるグルコース代謝賦活にはNa+流入が重要であり、Na+流入による細胞内ATP濃度の増加は引き続くCa2+流入を介すると考えられた。また一部はCa2+流入には依存せず、膜の脱分極そのものを介していると考えられた。 もう一つはグルコース感知受容体の新たな候補遺伝子CaSRの同定である(Medina, J., et al., J. Biol. Chem., 2016)。我々は膵β細胞にグルコース感知性受容体が発現し、グルコース作用に関与することを報告してきた。今回新たなスクリーニング法を行うことにより、CaSRがグルコース感知受容体として機能することを明らかにした。HEK293細胞にCaSRを恒常的に発現させたHEK-CaSRを作製した。HEK-CaSRでは、極めて低濃度のグルコース(4mM)でCa2+上昇が認められた。薬理学的な検討結果より、このシグナル伝達経路には、Gqが関与することが分かった。また、CaSRが生理的な状態で機能することが知られている腎尿細管や副甲状腺の培養細胞であるMDCKやPT-rにおいてもグルコース刺激によりCaSRが活性化され細胞内Ca2+濃度上昇が認められた。この結果は、CaSRが生理的条件下でグルコース刺激により細胞内Ca2+濃度上昇を惹起させることを示唆し、CaSRが新たなグルコース感知受容体であることを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、グルコース感知受容体の下流で働く因子の同定を行うことを計画し検討を行い1報目の論文を発表することができた。加えて次年度以降に計画として、グルコース感知受容体の新たな候補遺伝子を同定することに成功し、2報目の論文を発表することができた。以上理由から当初の計画以上に進展していると判断した。進捗状況は以下の通りである。 今回はグルコース感知受容体を介した細胞内ATP濃度上昇のメカニズムに注目し、このシグナル伝達機構について検討を行った。本研究によりグルコース感知受容体を介した細胞内ATP濃度の増加、つまりグルコース代謝賦活にはNa+流入が重要であり、Na+流入による細胞内ATP濃度の増加は引き続くCa2+流入を介することが示唆された。また一部はCa2+流入には依存せず、膜の脱分極そのものを介していると示唆された。脱分極が代謝を賦活するメカニズムは明らかではないが、何らかの新規メカニズムの関与が考えられた。以上のことより、T1R3は極めてユニークな機構によりグルコース代謝を賦活化すると考えられた。これらの結果は、Endcor. J.に報告した(Li, L., et al., Endocr. J., 2016)。 これまでグルコース感知受容体の候補遺伝子としてT1R3について報告した。今回は新たなスクリーニング法によりカルシウム感知受容体(CaSR)がグルコース感知受容体として機能することを報告した(Medina, J., et al., J. Biol. Chem., 2016)。現在、CaSRが膵β細胞においても、グルコース感知受容体として機能するか否か検討を行っている。具体的にはCRISPR-Cas9法により膵β細胞の培養細胞であるMIN6細胞のCaSRを欠損させ、その際にグルコース応答性インスリン分泌を惹起するシグナル伝達機能に変化が見られるか否か検討を行っている
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度より行っている新たなグルコース感知受容体候補遺伝子CaSRの生理的機能の解明に加え、当初より計画した以下の検討を行う。 申請者は、膵β細胞においてグルコースがグルコース感知受容体を介して代謝を促進し、ATP産生を亢進することを示した(Endocr. J., 61: 2, 2014)。これまでの検討ではATP産生量を発光で検出したため、細胞レベルでATPの挙動を検討することは難しかった。そこで本実験では、この問題点を改善するため、ATP変化量をFRETでリアルタイム観察できるATeam発現マウスを用いる。既にこのマウスを取得し、検討に向け準備を進めている。MIN6細胞での検討結果と同様に単離β細胞においてもグルコース感知受容体を介したグルコース応答性ATP産生が観察されるか否かを検討するとともに、T1R3koとATeam導入マウスを掛け合わせることでT1R3koにおいてもATP動態を検討する。具体的な方法として、グルコース、グルコース代謝の中間産物であるグリセルアルデヒドやコハク酸を用いて、ATP産生に違いが生じるか否か検討を行う。また、ATP動態ともに、Ca2+インジケーターを併用することにより、ATPとCa2+の同時モニターを行い、グルコース感知受容体の制御機構を解明する。
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Causes of Carryover |
当初の計画以上に順調に研究が進んだため、次年度使用の助成金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用の助成金は研究に必要な消耗品の購入に使用する。
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