2015 Fiscal Year Research-status Report
劇症1型糖尿病患者膵より同定された2種のウイルスによるβ細胞傷害機構の解明
Project/Area Number |
15K09429
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
今川 彰久 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80373108)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩橋 博見 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座准教授 (60397627)
福井 健司 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座助教 (60513009)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 劇症1型糖尿病 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.膵組織の収集と劇症1型糖尿病膵組織の免疫組織化学的解析:劇症1型糖尿病の診断基準を満たした2症例を収集した。サイトメガロウイルス感染細胞はβ細胞には認めなかったが、α細胞および外分泌細胞に認められた(症例1)。エンテロウイルス感染細胞は膵島内に認められたが、非常に少数であった(症例1)。HHV-6感染細胞は非膵島領域(症例1)あるいは非膵島領域(症例2)に認められた。また、マクロファージ、CD4・CD8陽性Tリンパ球の浸潤は、サイトメガロウイルス陰性の膵島に比べて陽性の膵島でより多く認められることを明らかにした(症例1)。 2.劇症1型糖尿病膵組織のウイルス学的解析:1症例において、膵組織よりDNAを抽出し、PCRを用いてサイトメガロウイルスを同定した。 3.劇症1型糖尿病におけるin vitro治療モデルの確立:MIN6細胞にpolyI:Cをトランスフェクションし、RNAウイルス感染時に上昇するサイトカイン・ケモカイン(1型IFN、CXCL10、Fas)やウイルス受容体(TLR3、RIG-I、MDA5、LGP2)、1型IFNを介した抗ウイルス経路(ISG15、Mx1、OAS1、PKR)の遺伝子発現上昇およびCaspase3活性上昇、TUNEL陽性細胞数の増加を確認した。 4.iPS細胞を用いたβ細胞傷害抑制モデルの構築:PolyI:Cを健常人由来iPS細胞から誘導したインスリン陽性細胞に対してトランスフェクションし、IFNβ発現の増加およびTUNEL陽性細胞数増加を確認した。さらに、上記トランスフェクションの前後でExendin4を投与し、MIN6細胞におけるサイトカイン・ケモカインの遺伝子発現抑制、MIN6細胞とヒトiPS細胞から誘導したインスリン陽性細胞におけるアポトーシス抑制が起こることを明らかとした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の計画では、1) 膵組織の収集、2)劇症1型糖尿病膵組織の免疫組織化学的解析, 3)劇症1型糖尿病膵組織のウイルス学的解析, 4)ウイルスβ細胞感染モデルによるβ細胞傷害機構の解析, 5)iPS細胞を用いたウイルス感染モデルの確立を予定していた。 このうち、1) については検体の収集が順調に進行しており、2)3)については本年度に計画の約70%達成された。これらの検討の一部については、第58回日本糖尿病学会年次学術集会にて報告した(米田 祥, 今川彰久, 他 第58回日本糖尿病学会年次学術集会、下関 2015)。また、4)5)については解析系が確立し、本年度計画が達成されただけではなく、次年度に検討を計画していたExendin 4, ISG15によるβ細胞傷害抑制モデルの検討のうち、Exendin 4によるβ細胞傷害抑制モデルの検討が達成された。これについては論文で報告した(Baden MY, Imagawa A et al. Plos One 2015)。 以上のように本研究はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の計画を中心に、平成28年度は以下の検討を行う。 1.劇症1型糖尿病膵組織における新規鍵分子の検証とin vitro治療モデル確立:ヘルペスウイルス感染劇症1型糖尿病膵組織の分析を進め、本年度は特に細胞内シグナルに関する分子の発現を検討することにより、主要なβ細胞傷害経路がエンテロウイルスβ細胞感染モデルの解析により明らかになった主要なβ細胞傷害経路と一致するか否かを明らかにする。一致する場合、その経路が原因ウイルスに関わらず主要β細胞傷害経路であると考え、当該分子をMIN6細胞において強制発現・ノックダウンし、polyI:Cを作用させることにより劇症1型糖尿病治療モデルを構築する。 2.iPS細胞を用いた鍵分子同定とβ細胞傷害抑制モデルの構築:ウイルス感染時に上昇することが確認された炎症性サイトカインをiPS細胞株由来インスリン産生細胞に作用させ、フローサイトメトリーを用いて単離、RNAを抽出して、抗ウイルス分子の発現を確認する。また、DNAマイクロアレイもしくはRNAシークエンスにより、病態に関連した新規鍵分子の発現解析を行い、その機能の解析を進める。 3.劇症1型糖尿病膵組織のウイルス学的解析:新規症例において、膵組織よりDNAを抽出し、PCRを用いたウイルスの同定を引き続き行う。 4.ISG15によるβ細胞傷害抑制モデルの検討:抗ウイルス分子であるISG15をMIN6細胞に過剰発現させるとサイトカインによるアポトーシスが抑制されることを報告しており、この細胞にpolyI:Cを導入し、ISG15によるβ細胞傷害抑制機構を明らかにする。 これらの方策は研究代表者のもと、研究分担者、大学院生やポスドクを組織して推進していく。研究成果については引き続き学会発表、論文発表などを通じて発信していく。
|
Causes of Carryover |
当初の計画の手順を一部修正し、次年度以降に使用する予定が生じたため、次年度使用額が生じた。すなわち、ヘルペスウイルス感染劇症1型糖尿病膵組織の分析のうち、特に細胞内シグナルに関する分子についての検討を予定していたが、それらは平成28年度に施行予定あるいは計画修正としたためである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は主に免疫組織化学に使用する抗体に使用する。その他、幹細胞培養を含む細胞培養に関する費用、サイトカイン等測定キット購入費用、FACSおよび免疫組織化学に使用する抗体と染色キット、遺伝子発現量測定のためのキット、DNA抽出と塩基配列同定のためのキット購入費用など、計画にしたがって研究費を使用する。
|
Research Products
(4 results)