2015 Fiscal Year Research-status Report
白血病幹細胞におけるオートファジーの機能的意義の解明と白血病治療への応用の検討
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15K09466
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡谷 久美 (中崎久美) 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70550432)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | オートファジー / 急性骨髄性白血病 |
Outline of Annual Research Achievements |
造血器腫瘍の治療成績向上のためには、治療抵抗性および再発の原因と想定される腫瘍幹細胞を除去することが肝要であり、腫瘍幹細胞の性質を生み出す分子基盤を解明することで造血器腫瘍の治癒を実現する新規治療の可能性を拓くことができると考えられる。 オートファジーは細胞内タンパク質や細胞小器官の分解を担う機構であり、近年の研究から種々の固形腫瘍がオートファジーに依存した増殖を示していることが判明している。加えて、オートファジーの正常幹細胞の維持における重要性が明らかになっており、各種固形腫瘍の治療標的候補として注目されている。一方で、急性骨髄性白血病(AML)の病態、特にAML幹細胞の機能におけるオートファジーの役割は明らかになっていない。白血病幹細胞は抗がん剤に対して抵抗性を示すことから再発の主要な原因と考えられており、白血病幹細胞の根絶することで再発率を低下させることができると考えられている。そのため、白血病幹細胞を標的とした新たな治療戦略の創出が望まれる。 本研究は、幹細胞のヒエラルキーを再現したマウスAMLモデルにおいてオートファジー関連遺伝子を欠損させることで、AMLの維持・進展におけるオートファジーの役割を解明することを目的としたものである。オートファジーに必須な遺伝子であるAtg7を欠損させることのできるマウスAMLモデルを作製し、AMLの進展および幹細胞の維持にオートファジーが必須であることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
AMLマウスモデルを用いて、AMLの進展および幹細胞の維持にオートファジーが必須であることを見出した。 具体的には、オートファジーに必須な遺伝子であるAtg7のコンディショナルノックアウトマウスの骨髄を採取し、AMLの原因となる融合遺伝子MLL-ENLを導入してマウスへ移植することで、Atg7を欠損させることのできるマウスAMLモデルを作製した。当マウスモデルにおいてAMLを発症後にAtg7を欠損するとマウスの生存が延長することから、AMLの進展におけるAtg7の重要性が個体レベルで明らかとなった。さらに詳細な解析を実施し、Atg7の欠損により白血病幹細胞の頻度・機能が低下していることが示された。同じくオートファジーに必須な遺伝子であるAtg5をマウスAMLモデルにて欠損させた場合も、マウスの生存延長および白血病幹細胞頻度の低下が生じており、上記の知見はオートファジー一般に適応できることが示唆された。 オートファジーの活性を測定する目的で、オートファジーによって分解されるタンパク質GFP-LC3を発現するトランスジェニックマウスを用いてマウスAMLモデルを作製し、解析を実施した。その結果、AML幹細胞は正常造血幹前駆細胞と比較してGFP-LC3の発現が顕著に低いことが明らかとなった。このことは、AML幹細胞においてオートファジーの活性化が起こっていることを示唆するものである。 さらに、オートファジーによるAML幹細胞維持の機序解析として、ミトコンドリアおよび活性酸素種の定量を実施したところ、Atg7を欠損したAML幹細胞においてミトコンドリアの蓄積と活性酸素種の増加が観察され、同時に細胞死の亢進が示された。以上の結果は、オートファジーによるミトコンドリアの分解が活性酸素種の産生を抑制することでAML幹細胞を保護していることが示唆しており、当初の予定を上回る成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度の取り組みにより当初想定していた仮説通り、AMLの進展および幹細胞の維持におけるオートファジーの重要性を個体レベルで示すことができた。H28年度以降はこれまでに明らかとなった知見を発展させ、AML幹細胞におけるオートファジーの重要性の機序解明および、オートファジーを治療標的としたAML治療を実現するための研究を実施する。具体的には、オートファジーを阻害する低分子化合物をAMLモデルマウスに投与し、Atg5やAtg7の欠損でみられたような生存延長や幹細胞の減少といった表現型が生じるかどうかを確認することで、オートファジーがAMLの治療標的として適しているかどうかをより臨床でのコンテクストに近い形で検証する。加えて、実際のAMLの治療で用いられる抗がん剤の効果にオートファジー阻害が与える影響を、AMLモデルマウスに抗がん剤およびオートファジー阻害剤を併用して治療効果を解析することで検証する。
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