2015 Fiscal Year Research-status Report
新規治療開始HIV感染症患者の免疫系の活性化と骨密度低下の機序の解明
Project/Area Number |
15K09582
|
Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
太田 康男 帝京大学, 医学部, 教授 (80292936)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | HIV / 骨密度 |
Outline of Annual Research Achievements |
HIV感染症患者で骨密度が低下することは、我々を含む国内外の研究で明らかになっている。HIV感染症のどの時期に特に骨密度の低下が認められるかを解明することは、骨密度低下を予防、軽減する上できわめて重要と考えられるが、この点に関してはまだ十分知見が得られていない。我々は、cART導入後のHIV感染症患者の骨密度の推移を詳細に検討した。その結果、cART導入後約半年は、cART導入前と比べ、著しく骨密度が低下することが判明した。その一方で、cART導入後約半年以降の患者では、一部(約15%)を除き、ほとんど骨密度の低下が進展しないことが判明した。 骨密度の推移がなぜこのような経過をたどるかについての機序は、全く解明されていないが、cART導入後約半年以降の患者では、ほとんどの患者で骨密度の大きな変化を示さないことから、この時期の骨密度の低下には、抗HIV薬の関与が最も疑われる。一方cART導入後間もない時期については、抗HIV薬の種類に関わらず低下がみられることが示されている。cART導入直後は、ウイルス量が急速に低下し、抑制されていた宿主の免疫系が活性化することが知られている。そのため、cART導入早期の骨密度の大きな低下の原因として、宿主の免疫系の(過剰な)活性化、特に単球・マクロファージやTリンパ球の活性化が関与していている可能性が推測される。本研究は、基礎的・臨床的アプローチの両面から、cART導入早期の単球・マクロファージやTリンパ球の活性化と骨密度低下の関連および分子機序を解明することを目的として行っている。 新規に抗HIV薬を開始した2症例を対象として、経時的に骨密度の測定および血液および尿中の種々のマーカーを測定した。ただ平成27年度は検討症例数が少ないため、統計学的な解析は行っていない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は新規に抗HIV薬を開始する症例を対象として行うが、平成27年度は新規にcARTを開始した症例が非常に少なかった。またAIDSを発症してcARTを開始した症例が、患者状況により、エントリーできなかったことも研究対象者の減少の一因となった。 ただしエントリーした患者では、以下の検討を行った。cART開始時の、年齢、性別、(推定)HIV感染症罹患年数、治療薬等の患者情報を調査した。cART開始時および24週後に、既治療群では、エントリー時と24週後にDXA(Dual-energy X-ray Absorption)を用いて、腰椎および両側大腿骨頸部の骨密度の測定を行った。さらにcART開始時、cART開始4週後、12週後および24週後に、白血球数、白血球分画、(高感度)CRP、HIV RNA量、リンパ球サブセット(CD4陽性Tリンパ球数、CD8陽性Tリンパ球数)を測定した。またRANKLやOPG、活性型ビタミンD3(1α,25(OH)2D3)、PTHやIL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカインの測定用に、血清を冷凍保存した。 細胞レベルでの病原微生物による単球の活性化の解析を、TLR4で認識されるLPSとTLR7/8で認識されるHIV特異的ssRNAで刺激し行うが、この実験系を確立した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は新規に抗HIV薬を開始する症例を対象として行うため、平成28年以降も多くの新規患者をエントリーさせて研究を継続する。具体的には、帝京大学医学部附属病院に通院中のHIV感染症患者で、新規にcARTを導入する患者(新規治療群)を対象とし、cART開始後1年以上経過し、HIV RN量が検出感度以下の症例をコントロール(既治療群)とし、経時的に骨密度の測定および血液および尿中の種々のマーカーを測定することにより、骨密度低下と関連のある臨床的指標を解明する。通常の診療の一環として測定する項目に加えRANKLやOPG、活性型ビタミンD3(1α,25(OH)2D3)、PTHやIL-1β、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカインも測定する。 またcART開始時後、抑制されていた免疫系が活性化することが知られているが、特に単球・マクロファージとTリンパ球の活性化が重要である。フローサイトメトリーおよびこれらの細胞が活性化される際に産生が亢進する物質を測定することにより、単球・マクロファージおよびTリンパ球の活性化を評価する。 また同時に細胞レベルでの病原微生物による単球の活性化の解析も行う。細菌による刺激としてはTLR4で認識されるLPSを、残存HIVによる刺激としてはTLR7/8で認識されるHIV特異的ssRNAを選択し、末梢血からビーズを用いて分離した単球を刺激し、IL-1βの産生量をELISA法で測定し、活性化の程度を評価する。 症例を集積することにより、統計学的な解析を加えることで、cART開始時の骨密度の推移に影響を及ぼす機序の解明に努める。
|
Causes of Carryover |
平成27年度は新規エントリーの症例数が少なかったため、RANKLやOPG、活性型ビタミンD3(1α,25(OH)2D3)、PTHやIL-1β、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカインなど、検体をまとめて測定する検査項目の測定を行わなかった。そのため、当初予算の一部を使用せず繰越金が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、平成28年度の元来の予算額に加え、平成27年度に繰り越した金額の全額を使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)