2015 Fiscal Year Research-status Report
ADHDを伴う治療抵抗性自閉症モデルマウスの確立とその分子病態の解明
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15K09873
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
久岡 朋子 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00398463)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森川 吉博 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (60230108)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 精神発達障害 / 神経科学 / 自閉症スペクトラム障害 / シナプス / 注意欠陥・多動性障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
[1] kirrel3欠損マウスの脳の組織学的・生化学的・分子生物学的解析:kirrel3欠損マウスの行動異常の原因と考えられる神経回路のうち、kirrel3蛋白の高発現の認められる、副嗅球、海馬、小脳のシナプス部の解析をシナプス蛋白(VGLUT1, VGLU2, PSD-95, NMDAR1, Neuroligin2等)に対する抗体を用いて組織学的(免疫染色法)、及び生化学的(ウェスタンブロット法)に検討した。その結果、成獣の副嗅球の糸球体シナプス部、及び小脳のピンソーシナプス部において異常をみいだしており、現在定量化中である。また、成獣で異常の認められた小脳のシナプス形成期(生後14, 21日齢)においても異常を見いだしており、現在個体数を増やして解析中である。 [2] kirrel3ホモ欠損マウスの行動学的解析:自閉症スペクトラム障害のモデルマウスでよく観察される常同行動の1つであるstereotype groomingの増加やrota-rodでの運動学習亢進が、kirrel3ホモ欠損マウスにおいて認められるかを検討した。その結果、stereotype groomingの増加は認められなかった(野生型 n=6, ホモ欠損マウス n=6)が、rota-rodでの運動学習亢進が認められた(野生型 n=32, ホモ欠損マウス n=30)。また、精神遅滞に関与している可能性を検索するため、学習、記憶に関して受動的回避テスト(野生型 n=7, ホモ欠損マウス n=11)やモリス水迷路テスト(野生型 n=16, ホモ欠損マウス n=18)を行ったが、有意な差は認められなかった。したがって、恐怖記憶や空間学習・記憶は正常である可能性が示唆された。また、成獣のコミュニケーション機能に異常がないかを、超音波発声により検討し異常を見いだしており、現在、個体数を増やして解析中である。 これらの結果より、kirrel3ホモ欠損マウスが精神遅滞を伴わない、ADHDを伴う治療抵抗型ASDのモデルマウスとなる可能性が高いと考えられる。また、その病態に小脳のシナプス部の異常が関与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
kirrel3ホモ欠損マウスの解析結果より、kirrel3ホモ欠損マウスが精神遅滞を伴わない、ADHDを伴う治療抵抗型ASDのモデルマウスとなる可能性が高く、その病態に小脳のシナプス部の異常が関与している可能性が明らかとなった。この小脳シナプス部の異常の分子病態を解明するには、成獣だけでなく生後のシナプス形成過程も詳細に検討する必要があり、今年度に予定していた組織学的解析の一部の実験を行うことができていない。しかし、次年度のkirrel3ホモ欠損マウスの成獣の脳におけるkirrel2やネフリンの発現の組織学的解析の一部を先行して行っており、おおむね順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、1. 成獣kirrel3ホモ欠損マウスの脳内各部位におけるセロトニン量、ドーパミン量の測定、2. kirrel3ホモ欠損マウスの成獣の脳におけるkirrel2やネフリンの発現の組織学的・生化学的解析、3. 成獣kirrel3欠損マウスにおける薬剤投与テストを行う。さらに、今年度のkirrel3ホモ欠損マウスの解析で小脳のシナプス発達過程においても異常が示唆されたことから、生後の発達過程のkirrel3遺伝子ホモ欠損マウスの詳細な組織学的・生化学的・分子生物学的解析(シナプス関連分子の免疫染色、ウェスタンブロット、リアルタイムPCRによる発現異常の有無の検討)や脳内各部位におけるセロトニン量、ドーパミン量の測定を行い、kirrel3の神経回路網形成における役割と、その遺伝子異常が注意欠陥・多動性障害を伴う自閉症の発症に関与する可能性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
小脳シナプス部の形成異常の病態解明には生後の小脳シナプス発達過程を詳細に検討する必要があるが、シナプス形成過程の各々の時期(日齢)ごとにまとめて実験を行う方が効率がよいため、今年度は一部の時期のみ検討を行い、残りの時期をまとめて解析するために必要な使用予定額を次年度へ繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
kirrel3遺伝子ホモ欠損マウスの小脳の関連する神経回路の組織学的・生化学的・分子生物学的解析(シナプス関連分子の免疫染色、ウェスタンブロット、リアルタイムPCRによる発現異常の有無の検討)やセロトニン量、ドーパミン量の測定を生後の種々の発達過程において詳細に検討するために使用する。
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