2016 Fiscal Year Research-status Report
愛着関連障害診断および被虐待乳幼児とその親のオキシトシン濃度についての研究
Project/Area Number |
15K09874
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Research Institution | Mejiro University |
Principal Investigator |
青木 豊 目白大学, 人間学部, 教授 (30231773)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 武男 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (80510213)
遠藤 利彦 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (90242106)
中村 和昭 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 薬剤治療研究部, 室長 (80392356)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 反応性愛着障害 / 脱抑制対人交流障害 / 虐待 / オキシトシン / バゾプレシン / 受容体の遺伝子多型 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の第1の目的は、愛着関連障害(反応性愛着障害及び脱抑制対人交流障害(DSM-5))の、構造化された評価法による症例検討である。愛着関連障害は、虐待へのアプローチの中で最重要な障害ではあるにもかかわらず、現時点まで本邦では、症例のスケッチのみしか発表されていない。平成28年度に、神奈川県下の全ての児童相談所と研究協力を行い、3事例に構造化された評価法を行った。同症例は2人の評価者によって愛着関連障害ではないと診断された。本研究の第2の目的は、被虐待乳幼児と虐待者の唾液中オキシトシン濃度を測定することである。近年愛着形成の生物学的基盤として、オキシトシンが重要な役割を果たしていることが明らかになった。虐待は乳幼児の愛着形成に負の影響を与えるが、世界的にも虐待されている子供とその親のオキシトシン濃度は発表されていない。今年度オキシトシンと同様に絆形成に重要と考えられているバゾプレシンの唾液中濃度も測定することとした。また、これらホルモン受容体遺伝子多型やセロトニントランスポーター、ドパミン受容体などの遺伝子多型も、解析することを目標に加えた(虐待-オキシトシン-遺伝子研究)。倫理的な問題や、症例の協力などに困難が続いているが、主に横浜市児童相談所との協力関係をより深化し、同所にて虐待サンプルをリクルートすることが承認されている。平成28年に両ホルモンの唾液中濃度を測定する成育医療研究センターの分担研究者が他機関に移動したため、6ヶ月間測定ができなかった。しかし新しく分担研究により(中村和昭)これらホルモンのアッセイが引き継がれ、同問題は解決した。一方、児童相談所でのサンプルが未だ得られていない。重度の虐待を行っている保護者への同意の困難さが大きな障壁になっている。対照としての診療所サンプルは、さらに4例加わったが、こちらも更なる協力者のリクルートが必要となる
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
すでに述べたように、アタッチメント関連障害研究と虐待-オキシトシン-遺伝子研究2つの研究が遅れている共通した理由は、研究協力者の同意をとることの困難さである。愛着関連障害は、そもそも頻度が稀な障害である。さらに重度のネグレクト例であるために、児童相談所がすでに支援を始めており、児童相談所との虐待している親との関係の困難な中、研究同意は容易ではない。虐待-オキシトシン-遺伝子研究においては、虐待サンプルを平成28年度に得られていない。クリニックにおける対照(非虐待サンプル)については既に4例を得ており、この速度を加速できる可能性がある。虐待―オキシトシン研究が、遅れている理由は、さらに2つある。唾液中オキシトシンのアセイは、共同研究者である成育医療研究所藤原武男氏に担当していただいていた。同氏が平成28年度より、東京医科歯科大に移ったために、中村和昭先生に引き継がれるまでのおおよそ6ヶ月間中断せざるを得なくなった。さらに遺伝子研究を加えたため、倫理審査に4ヶ月を費やし(主任研究者の所属する目白大学では承認を得た)、現在も長崎大学、成育医療センターで倫理審査中である。検体のアッセイは、まとめて行われるため、まだ唾液中濃度の結果は出ていない。
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Strategy for Future Research Activity |
愛着関連障害研究については、児童相談所と共同して症例を見つけるためのさらなる工夫を行う。平成27年度末に、神奈川県の児童相談所のすべての保健師と会議を持つことができた。保健師は虐待症例のほとんどに関わっているために、同障害疑いの子どもを見つける可能性が高い。結果、平成28年度に、保健師の意見もあり、3例の評価が得られた。さらに昨年度末に、児童養護施設(唐池学園)と乳児院(ドルカスベビーホーム)との協力が決定した。同施設で、愛着関連障害が疑われるケースが発見されれば、管轄児童相談所にご連絡いただき、児童相談所の判断で、評価が必要な場合対象家族に研究協力をお願いするシステムを作った。 虐待-オキシトシン-遺伝子研究については、以下の過程が必要である。遺伝子研究も含まれたため、第1に遺伝子研究については各研究機関での倫理審査承認の必要がある。目白大学の承認が平成29年4月3日に得られたが、長崎大学の承認を得る。また横浜市児童相談所の承諾も必要であるが、それは昨年度末3月に承認を得ている。第2に、遺伝子研究を除いた研究において横浜市児童相談所のサンプル確保をする必要がある。昨年度末から、横浜市児童相談所の精神科医とのミーテングを重ね、同意がとりやすい形を模索している。例えば、質問紙の種類をケースによっては制限して良いなどの対策をすでに始めている。また、質問紙のセットを取り扱いしやすい冊子にした。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては,本研究における事例の収集が必ずしも順調ではないことと関連している。本研究における研究費の使用計画の一つに,事例に関する評価が挙げられる。それは,オキシトシンやバソプレッシン,遺伝子解析といった生理学的な側面と,観察法やインタビューなどの臨床的な側面があり,これらの評価に一定の費用が必要である。しかし事例の数が目標に達していないため,次年度への使用が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後,事例の収集については児童相談所との緊密な連携,平成28年度より始めた乳児院等の施設との連携,クリニックでの症例への依頼などを通し,促進されると思われる。事例の収集に伴い,評価の必要性も増加し,これらの評価の費用に使用する予定である。
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