2015 Fiscal Year Research-status Report
放射線被曝個体における敗血症発症機序の解明とその治療法の解析
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15K09965
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
仲村 究 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (30736690)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 放射線障害 / 敗血症 / 炎症性バイオマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者のこれまでの検討では、重症病態下にある患者の好中球や単球では抗炎症性蛋白により、貪食細胞の殺菌作用の減弱が起こっている(Immunol Cell Biol. 90:796, 2012.)。また、熱傷や放射線障害を受けたマウスを用いて経口感染に続発して引き起こされる敗血症のモデルでは、Ⅱ型単球やM2マクロファージなど免疫抑制性細胞群の誘導がもたれされる(PLoS One. 9:e83747, 2014., J. Immunol. 189:296, 2012., J Leukoc Biol. 92:859, 2012.)。2015年度はこれに継続して、放射線障害下や敗血症など重症病態下で過剰に誘導されるオロソムコイドの機能に着目した研究を行い、これを論文報告した(Cytokine. 37:8, 2015)。 本年度の検討により、5Gyの全身放射線照射によって、一般細菌および真菌による経腸管的な感染がもたらされることが示された。これらの機序の一部においては、抗炎症性蛋白による宿主のマクロファージや好中球の貪食・殺菌機能の低下によって引き起こされているが、その他の機序として腸管絨毛の直接的な障害が関与している可能性が示唆された。この腸管絨毛の障害機序が確立されれば、それを修復することによって、腸管感染による敗血症への進展を抑制出来る可能性がある。類似の病態が癌化学療法や臓器移植に伴うGraft-versus-host deisease(GVHD)でも引き起こされている可能性があり、この腸管粘膜の障害起点が明らかとなれば、それらの重症病態下で合併する腸管粘膜障害を改善出来る可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
敗血症病態下で誘導されるオロソムコイドについて、それが直接的に抗炎症性マクロファージを誘導することについて、2015年度に報告を行った。また、敗血症におけるバイオマーカーの機能について、2015年4月に開催の日本感染症学会総会、2016年1月に開催の日本臨床微生物学会総会において報告した。現在、放射線障害下の一般細菌および真菌による経腸感染モデルを作成中であるが、当初、5Gyの全身放射線照射を行った場合、1,000,000CFU/mL程度の菌量で、十分な消化管ダメージが得られると思われた。しかし、検討の結果、腸管へのダメージの程度は極軽度であった。このため、さらに菌量を増加させ、また必要に応じて放射線照射量を増加させる必要があると考えている。また、腸管切片の病理的な評価に時間を要しており、引き続き集中した検討が必要な状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者はこれまでの検討によりサイトカインなどによる感染免疫応答の低下を報告しているが、2016年度は上に述べた放射線障害下で誘導される腸管絨毛へのダメージについて電子顕微鏡による解析をさらに進める方針である。この障害部位によって病原体がより容易に粘膜に付着・侵入することが可能であることが示されれば、重症病態下での粘膜障害、易感染性を改善する一つの方法となる可能性があるためである。なお、これまでの検討では5Gyまでの放射線障害をメインとしているが、より強い放射線障害下での観察が、腸管粘膜障害の観察に有効である可能性があり、適切な倫理申請による許可を得た上で動物モデルの修正を行うことを検討している。
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Causes of Carryover |
本年度の研究費により、研究を開始するのに必要な各種ELISA kit、フローサイトメトリー用の各種抗体などを購入した。これらにより敗血症病態下の実験動物、あるいはヒトの血液細胞の解析を行っており、2016年度はさらに研究を進めることが可能である。次年度使用額についても順次消費しており、本年6月まででほぼ額面はゼロとなる見込みである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1) 実験用動物:本研究では、野生型BALB/cマウス、C57BL/6マウスの購入と、所属施設内でのマウスの繁殖・維持(飼育費、管理費)などの必要があるため、動物実験用経費の比重が相対的に高く算出されている。2) ProCTについては免疫組織標本の作製用の試薬類の購入も予定されている。好中球やリンパ球、マクロファージの解析に用いるサイトカイン、ケモカインと、表面抗原、各種血球の分離用抗体が必要であり、それらを算定している。3) PCR用消耗品・プライマー試薬:各種サイトカインの産生や細胞内発現量を測定する目的でPCRも利用する。4) FACSによる細胞解析費用:細胞分離目的の試薬や溶媒、牛胎児血清などを消耗品として購入する予定である。5) 感染後の臓器内菌数の評価のため各種培地を購入予定である。
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